1.はじめに
イベント堆積物とは,イベント(例えば,地震,津波,噴火,斜面崩壊,洪水など)に際し,その直接的もしくは間接的作用によって形成され,そのイベントを記録する堆積物と言える(Nerendofr et al., 2005;山田,2019).その形成過程としては,(1)給源物質の形成過程,(2)誘因過程(トリガー),(3)運搬・堆積過程に分けられる(Einsele et al., 1996).実際に地層中に認められるイベント堆積物は,これらの過程を反映した結果である.したがって,堆積物から過去のイベントの情報を読み取るためには,上記の過程を堆積物から復元する必要がある.
本発表では,イベント堆積物である津波堆積物を例に,そこに含まれる礫の形態に注目することで,給源と運搬過程を推定する.使用する津波堆積物は,岩手県山田町小谷鳥での掘削調査で得られた最近4000年間のものである(Ishimura and Miyauchi, 2015).これらを使用した結果はすでにIshimura and Yamada, 2019)で報告されているが,本発表では,さらに古い4000年前から十和田—中掫テフラ(約6000年前;Mclean et al., 2018)間のイベント堆積物にも適用し,津波堆積物であるかどうかの議論を加える.
2.手法
本研究では,礫の形態を定量化するために,Wadell(1932)の定義に従った円磨度を用いた.また,肉眼による観察では,観察者によるバイアスがかかり,加えて,統計的な処理が可能な数量を得るために膨大な時間がかかるため,画像解析を用いた.試料の準備および解析については,Ishimura and Yamada(2019)に従った.
試料については,イベント堆積物を洗浄し,2 mm以上の礫をふるいにより選別した.それらの礫を手作業にて粒子同士が接しないように並べた.撮影した写真について,二値化した後にZheng and Hryciw(2015)のプログラムを用いて,円磨度を計算した.そして,給源となる海岸を構成する礫と地質の異なる2河川の礫の円磨度分布から,イベント堆積物の円磨度分布を説明しうる各給源の寄与率を求めた.
3.最近4000年間の津波堆積物の円磨度分布
Ishimura and Miyauchi(2015)で津波堆積物と認められた堆積物には,海岸起源の礫が全てに認められた.また,浸水距離が記録されている2011年,1896年,1611年の歴史津波に対比される津波堆積物の円磨度分布は海岸から内陸へ向かって,河川起源の礫の割合が増加した.したがって,小谷鳥の津波堆積物を構成する礫は,海岸と陸地の両方に起源を持つことがわかった.
さらに各歴史津波の浸水距離で規格化したところ,浸水距離の40%内陸地点で河川の寄与率が劇的に増加する傾向が得られた.これは押し波による海岸礫の内陸への運搬と引き波による陸地の礫の海側への運搬両方の結果と考えられる.この傾向を869年津波に対比される津波堆積物へ適用し,その浸水距離を求めたところ1896年の津波と同程度であることが推定された.このような過去の津波規模推定は,従来の手法とは全く異なるアプローチであり,新たな津波規模推定の可能性を示す.
4.最近4000〜6000年間のイベント堆積物の円磨度分布
4000〜6000年前には,2〜3層の津波堆積物と推定されるイベント堆積物が存在する.それらの円磨度分布を求めたところいずれも海岸起源の礫を含んでおり,津波堆積物に認定される.一方,土石流や河川性と推定された堆積物の円磨度分布は,ほぼ河川起源の礫から構成されることを示し,本手法を用いることで明確に河川性堆積物を区別することが可能であるとわかった.
5.まとめ
本研究では,津波堆積物を例とし,イベント堆積物に含まれる粒子の給源とその混合比から推定される運搬過程を推定した.このようなアプローチは,他のイベント堆積物(火山噴火,斜面崩壊,洪水など)に対しても可能であり,堆積物を構成する粒子の円磨度や起源,その混合比を定量的に求めることで,より確度の高い議論が可能になると思われる.