日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 106
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発表要旨
「地理の再文脈化」研究に関する国際的動向
*金 玹辰
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抄録

イギリスの教育社会学者であるBernsteinの「<教育>言説(pedagogic discourse)」論によれば,学問分野で生産された知識の中から(生産の領域)が学校で学ぶべき知識として選ばれ,組み換えられる(再文脈化の領域)。さらに,その知識の中には水平的なもの(事実的知識)と垂直的なもの(概念的知識)があり,学校教育で地理の位置を高めるためには,学問としての地理から垂直的構造を持つ概念的知識を選ぶ必要がある。

この「地理の再文脈化(Recontextualising Geography)」は,2019年4月にイギリスのUCL‐IoEにて開催されたIGU‐CGE大会のテーマであった。この大会では,学校地理においてどのように地理の「中心概念(big ideas)」が再文脈化されているかを焦点とし,場所(Place),空間(Space),相互依存(Interdependence),スケール(Scale),環境(Environment),持続性(Sustainability)という6つの中心概念が挙げられた。発表申請に対しては査読があり,大会テーマとの関連性や一つ以上の中心概念の選択などが問われた。その結果,総11セクションで47本の発表があった(個人30本,連名17本)。

本発表では,大会の発表要旨集を分析することで,「地理の再文脈化」研究に関する国際的動向を明らかにする。発表要旨集(61p:目次p.2,プログラムpp.3~7,キーノートpp.8~10,要旨pp.11~56, 周辺案内pp.57~58,参加者名簿pp.59〜60)は印刷版と電子版があるが,電子版の方が3本の発表が追加されたりした最終版となっている。

プログラムや要旨では発表者の氏名のみ掲載されているが,参加者名簿には氏名と所属が明記されている。そこで,まず参加者名簿から発表者の氏名を見つけ,その所属を確認した。61名(3名は所属未記入)が参加者名簿に掲載されており,そのうち47名(2名は所属未記入)の発表者氏名が確認できる。また,キーノートの二人の氏名・所属は参加者名簿には掲載されていない。所属をもとに,国別参加者・発表者の数を見ると,次の通りである。

開催地であるイギリスの参加者が15名で一番多く,その次は11名が参加したドイツである。両国の発表者は8名で同じであるが,イギリスからは個人7本と連名1本,総8本の発表があり,ドイツからの発表は個人4本,連名3本で,総7本であった。次の開催地であるチェコの参加者は6名で全員発表者ではあったが,連名で複数発表の人もいった。一方,アメリカの参加者4名は全員個人発表であった。オーストラリアからは3名参加者と3本の発表があった。スウェーデンと中国からは各々3名が参加し,そのうち2名が発表者であった。チリとシンガポールからは各々2名が参加したが,連名で複数発表を行った。日本からは2名の参加で一人(筆者)の発表があった。そのほか,一人で参加し発表した場合が多かった(オランダ,フランス,スペイン,ハンガリー,ブラジル,南アフリカ,セーシェル,インド,韓国)。

特に,注目したいことは国際的な共同研究である。まず異なる国の機関からの三つの連名発表(①スウェーデン・チリ・チェコ,②シンガポール・チリ,③チリ・ポルトガル)がGeoDis(Geographical Dispartites)プロジェクトの成果であった。このプロジェクトは2014年から始まっており,スウェーデン・イギリス・シンガポール・チリ・ポルトガル・チェコの6ヵ国の研究者が参加している。

次に,GeoCapabilitiesプロジェクトの関連研究も多かったが,2期が終わった視点でその後の展開は地域によって異なっている。ヨーロッパではイギリス・オランダ・フランス・チェコの大学とベルギーの中等学校が参加し,「移住(migration)」に関する教授・学習を中心に3期のプロジェクトを続いている。関連して大会では,オランダとフランスでの実践報告があった(プロジェクトの参加は不明であるが,スウェーデンからの類似する発表もあった)。一方,1期にメンバーであったアメリカの場合は,独自にPowerful Geographyプロジェクトを推進している。大会では2本の関連する発表があったが,実践レベルまで研究が進んでいるヨーロッパとは異なり,国や州のスタンダードのレベルでの再文脈化を中心とする傾向があった。

 以上,参加者および発表者の所属を中心に分析した結果である。これに加え,当日の発表においては,選択された中心概念や生産・再文脈化・再生産の領域などの分析結果を報告する。

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