台湾中部に位置する頭社泥炭地
頭社泥炭地は台湾中央部日月潭の北側に位置する。泥炭層の層厚は40mを越え、9万年以上にわたり、連続的に泥炭が堆積している。本研究では、泥炭層上部5mのボーリングコア試料(9000年間)を用いて、2-5cm間隔に133試料を採取し、珪藻および黄金色藻化石の観察を行った。コア試料は均質な泥炭から構成されているが、56-68cm, 155-160cm, 205-240cm および 470-476cmにおいて細砂層が挟在していた。
珪藻および黄金色藻化石を用いた洪水堆積物の判定
頭社泥炭地は高層湿原であり、酸性環境に適応した特殊な珪藻種( Eunotia serra, E. lunaris)が産出している。これらの種は、殻の構造が脆弱であり、最上部20cmを除き、泥炭層中に保存されることは希である。
これに対して、細砂層が挟在する56-68cm, 155-160cm, 205-240cm および 470-476cmにおいては、Aulacoseira spp., Cymbella spp., Pinnularia spp., Staurosira spp.,など中性から弱アルカリ性の沼沢や湿地に生息する珪藻種が多産している。さらに、黄金色藻類の休眠胞子も同層準で多産することがわかった。これらの珪藻種および休眠胞子は高層湿原内では生息しておらず、洪水などによって、泥炭地内に運搬され堆積したと推定された。
頭社盆地における洪水堆積層の編年
頭社泥炭地では、珪藻および黄金色藻化石を指標として過去9000年間に4回の洪水堆積層が確認され、それぞれはC14年代測定によって、ca.8200 cal yBP, ca. 5200-5600 cal. yBP, ca. 4200 cal. yBP、, ca.2000 cal. yBP, に編年された。頭社泥炭地では、花粉化石および炭粒子の分析によって、完新世においてENSO活動変動に伴う大規模な気候変動が復元されており、本研究によって推定された洪水履歴も東アジアにおける広域の気候変動と関連する可能性が高い。