日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 114
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発表要旨
ドイツ付近の冬の極端な低温日の出現状況に関する動気候学的解析
*加藤 内藏進三宅 千尋大谷 和男
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抄録

緯度の割に温和な冬という特徴にもかかわらず,「厳しい冬」という季節感が生まれるドイツ付近の気候の背景を明らかにするために,1971〜2010年について,主にNCEP/NCAR 再解析データ(2.5°×2.5°緯度経度格子,Kalnay et al. 1996)を用いて解析を行った。

 ドイツ付近における日平均気温の40年間での階級別出現頻度分布の季節経過によれば,10月〜11月中旬にかけては,高温側と低温側へのほぼ対称的な変動を保ちながら日平均気温は季節的に低下していた。しかし,11月中旬以降,3月中旬にかけては,日々の気温の変動幅は大変大きくなった。例えば出現頻度6%以上(ひと月あたりに直すと,平均1.8日以上)を示す日平均気温の変動幅が11月中旬頃までは±5K(peak to peakで10K)程度だったが,±7K(同14K)程度に拡大した。しかも,出現頻度1%未満(ひと月あたり0.33日未満,つまり約3年に1回/月)の出現幅は大きく広がるとともに,高温側とよりも低温側に特に大きく広がるという非対称性を示していた。それに対応して,日平均気温-10 ~ -15 ℃程度の極端な低温日も,それなりの頻度で出現していた。つまり,40年平均の「日平均気温-7℃以下」を閾値とした「極端な低温日」の出現頻度は,ひと冬あたり7日弱ではあるが,これば,決して稀な現象ではない点に注意が必要である。

 ヨーロッパの冬の寒暖の変動は,北極振動AOや北大西洋振動NAOの影響も強く受けることが知られている(Hurrel 1995, 1996:Thompson and Wallace 1998等))。NOAAのAO指数を前述の「冬」で平均した値が負の年の方が,「冬」の平均気温も低く,-7℃以下を閾値とした「極端な低温日」の日数も多い傾向はあったが,そのような傾向から外れる年も少なくなかった。但し,「極端な低温日」の出現日数が15日以上の年は,AO>0の場合は2冬しかなかったのに対し,AO指数<0となった全23冬のうち8冬もあった(これら8冬を,「典型年」と呼ぶことにする)。

 これらの「典型年」には, 日平均気温の半月〜1ヶ月程度の周期での季節内変動の振幅が11月初め頃から12月初め頃にかけて季節的に急増し,12月中旬頃〜3月上旬頃を通して,短周期変動の振幅と同程度の大きさを保った点が注目される。つまり,「典型年」には,季節内変動に伴ってかなりの高温日も出現する一方,「極端な低温日」が数日以上持続する期間が周期的に2〜3サイクル出現することにより,その「冬」全体の極端な低温日の出現総日数が多くなりえたことが分かった。このように,長期間のデータで見たドイツ付近における日平均気温の変動性の季節的急増と「極端な低温日」の出現頻度の増加は,全体の1/4程度の「典型年」における季節内変動の振幅が,そのタイミングで季節的に増大することを強く反映している可能性が示唆された。

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