日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 335
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発表要旨
長野県上田市およびその周辺における2019年台風19号を要因とする鉄道交通の被災と復旧過程
*松山 周一
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抄録

近年、鉄道交通は台風や豪雨による水害、東日本大震災や熊本地震などの大規模震災に代表される自然災害によって全国各地にて被害を受けている。さらに鉄道交通は復旧に費用や年月がかさむことから被災状況によっては廃線の危機に立たされることもある。本研究では、2019年に発生した2019年台風19号における周辺の鉄道交通の被災と復旧過程を事例に、鉄道交通における災害の要因およびその対応について、各種交通機関や自治体が行ってきた取り組みとその問題点を中心として明らかにすることを目的とする。研究方法は研究対象地域における主要なローカルメディアである信濃毎日新聞に掲載された記事と現地調査をもとに、2019年台風19号発生時における主な被災状況、復旧までの間における代行輸送等の実施概要、被災した鉄道路線の復旧の過程を明らかにしたうえで、それぞれの過程に応じた諸問題及びそれに対応して制定された各種施策について検討する方法を用いた。研究対象としては台風19号発生に伴って、市域内を走行するすべての鉄道路線が影響を受け、災害を起因として地域内の鉄道交通網がすべて機能停止状態に陥ったことから、長野県上田市およびその周辺を研究対象地域とした。

研究の結果、災害発生から復興までの一連の流れから、競合していた交通機関が、協同して局面を乗り切ろうとするする様子がうかがえた。ただ、これは同時に地方の交通機関のいずれもが有事には協同して事態を打開しなければならないほど、危機的な状態にあると理解することもできる。 自然災害をはじめ、様々な要因で公共交通機関の存続が全国各地で危うい状況になっているなか、鉄道交通をはじめとした公共交通機関のありかたについて、各交通事業者の経営方針、地域における交通政策および支援・補助の方針など、産業という側面からも公共交通政策という側面からも既往のありかたから大幅な転換が迫られている状況にあることが、研究を通して理解できた。

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