日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 362
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発表要旨
飛騨山脈の氷河の質量収支振幅
*有江 賢志朗奈良間 千之福井 幸太郎飯田 肇山本 遼平
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キーワード: 氷河, 質量収支, 飛騨山脈, SfM-MVS
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抄録

1.はじめに

 飛騨山脈北部では,2012年以降七つの氷河が確認されている(有江ら,2019など).氷河の形成と変化は,降雪を主とする涵養と融解を主とする消耗の上に成り立つ質量収支の結果であり,氷河の質量収支変化の要因を理解するには,冬期収支(涵養)と夏期収支(消耗)の測定が必要である.また,冬期収支と夏期収支の絶対値の総和の半分の値である質量収支振幅は,極地や大陸性気候の氷河で小さく,海洋性気候の氷河では大きくなり,氷河の地理的特徴を示す際に有効である(Braithwaite and Hughes, 2020).

 福井ら(2018)は, ステーク法で2012〜2016年に御前沢氷河の質量収支の観測をおこなったが,多雪年にステークが雪に埋まってしまい,年間の質量収支だけでなく,冬期収支と夏期収支の観測も実現できていない.そのため,飛騨山脈の質量収支の地理的特徴はいまだ明らかでない.

 そこで本研究では,セスナ空撮画像とSfM-MVS技術を用いた測地学的方法で,飛騨山脈の氷河の2015/16年,2016/17年,2017/18年,2018/19年の計4年間分の年間質量収支,冬期収支,夏期収支を求めた.さらに,飛騨山脈の氷河と世界各地の氷河の質量収支振幅を算出・比較し,飛騨山脈の氷河の地理的特徴を考察した.

2.方法

 セスナ機空撮によって取得された氷河の空中連続画像とSfM-MVS技術によって,融雪末期(10月)と積雪最大期(3月)の地形表層モデル(DSM)を作成した.氷河の規模が年間で最も小さくなる融雪末期のDSMを一年間隔で比較することで,融雪末期を基準とした氷河の年間質量収支を求めた.また,積雪最大期のDSMと,融雪末期のDSMを比較することで,氷河の冬期収支および夏期収支を求めた.

 また,質量収支振幅に関して,飛騨山脈の氷河の値は,本研究の冬期収支と夏期収支の結果の平均値を用いた.世界各地の氷河の値は,WGMS(2020)に冬期収支および夏期収支が記録されている188の氷河(図1)の冬期収支と夏期収支の値の平均値を用いた.

3.結果

 図2は,飛騨山脈の五つの氷河の年間質量収支,冬期収支,夏期収支の結果である.五つの氷河の年間の冬期収支と夏期収支の大きさは,10m(水当量)程度であった.また,冬期収支は大きな年々変動がみられ,夏期収支はほとんど年々変動がなかった.図3は,地域別の氷河の年間質量収支変動幅,冬期収支,夏期収支の平均値である.飛騨山脈に分布する氷河の年間質量収支変動幅の大きさは,世界の氷河と比較して極端に大きかった.

4.考察

 年間質量収支の年々変動と冬期収支の年々変動が同じ傾向で変動していることから,飛騨山脈の氷河は,冬期収支が年間質量収支を決定していると考えらえる.また,飛騨山脈の氷河の冬期収支と夏期収支が極端に大きいことから,飛騨山脈の氷河は,観測された世界の氷河の中で最も降雪量が多く,温暖な環境に位置する氷河であると考えられる.

引用文献

 有江賢志朗,奈良間千之,福井幸太郎,飯田肇,高橋一徳 2019.飛騨山脈北部,唐松沢雪渓の氷厚と流動.雪氷,81:283-295.

 Braithwaite, R. J. and Hughes, P. D. 2020. Regional Geography of Glacier Mass Balance Variability Over Seven Decades 1946-2015. Front. Earth Sci. 8.

 福井幸太郎,飯田肇,小坂共栄 2018.飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91:43-61.

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