日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 334
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発表要旨
デジタル時代における持続可能な生業戦略の解明
ベトナム・メコンデルタのエビ養殖者を事例に
*皆木 香渚子
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抄録

Ⅰ.はじめに

 ベトナムにおけるエビ養殖業は、農村部の貧困緩和や雇用創出といった経済効果をもたらしてきた。一方、エビの感染症の蔓延、国際市場の価格変動に対する脆弱性、気候変動に伴う養殖環境の悪化等、経済的環境的なリスクへの対策が喫緊の課題である。 近年、南側諸国の農業分野ではデジタル技術を活用した課題解決アプローチが注目されている。本研究では、ベトナム・メコンデルタにおける主な生産主体である小規模養殖者が、どのようにデジタル技術を利用して経済的環境的なリスクを吸収しているのかを、彼らのSNSを介した情報交換の実態を分析し、考察した。

Ⅱ.調査方法

 ベトナムで最も利用者人口が多いSNSであるFacebookを分析対象とした。Facebookのサイト内で「エビ養殖(nuôi tôm)」と検索し、ヒットした複数のグループの中から、養殖エビの生産量の上位3省であるカマウ省、バックリエウ省、ソクチャン省の省名がグループ名に入っており、参加者人数が最多のグループの投稿内容とコメントを取得した。その中から、「いいね」の件数が毎月上位10位までの投稿、全1088件を抽出し、その内容を分析した。 

Ⅲ.結果

 投稿の内容に従うと、養殖資材の宣伝、エビの取引、養殖技術の共有、意見、求人の5つに分類ができ、さらに情報の流れに従うと、以下の3種類に分類することができた。 「フィードバック型」の情報の流れが養殖資材の宣伝とエビの取引に関する投稿で確認できた。企業による養殖資材の宣伝に対して、品質や使い勝手などの情報がフィードバックされていた。また、仲買人による取引条件を比較することができるだけでなく、コメント機能を用いて取引条件を交渉するケースも見られた。 養殖技術の共有、意見の投稿は「多方向型」に分類できた。気象変化に応じた適切な養殖池の管理方法やコロナ禍での国際的なエビ需要の変動についての情報が地域を越えて幅広く共有され、Facebook利用者は、自分自身が直面するリスクや生産条件に応じた情報を取捨選択することが可能であった。  「外部拡散型」の情報の流れは求人の投稿に顕著であった。メコンデルタ内外の水産加工会社もしくは養殖者による養殖池の季節労働者を求める投稿はFacebookグループ外に「シェア」される件数が多く、その結果、Facebook利用者は、ベトナム中南部という広域での求人情報を得ることが可能となっていた。

Ⅳ.考察・結論

 メコンデルタのエビ養殖者にとってSNSの利用は、従来のような政府による一元的・地域限定的な情報だけでなく、個別の世帯レベルで必要とされる情報へのアクセスを可能とした。このことが、小規模生産者が多数を占めるエビ養殖業にとって、世帯レベルでのリスク軽減に貢献していると考えられる。

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