日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P016
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機械学習を用いた三宅島における火山泥流の予測に関する研究
*中山 大地
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抄録

1 はじめに

三宅島は2000年に述べ5回の大規模な噴火をし,火山泥流が発生した.これにより,島の周囲にある集落への泥流堆積や,島の中腹を一周する道路の橋が崩落するなどの被害が発生した.しかし,これらの火山泥流の発生及び被害の分布は火山灰の堆積状況と降水の強度及び空間分布により変化する可能性がある.このため,地形的に泥流が発生しやすい場所と堆積しやすい場所を明らかにすることで,今後発生するかもしれない火山泥流に対する対策を取ることができる.以上の理由から,本研究では機械学習の一種である決定木を使って三宅島における火山泥流の発生・堆積場所の予測を行い,さらに泥流シミュレーションを行って火山泥流の到達時間及び到達範囲に関する検討を行った.

2 決定木を用いた火山泥流の発生・堆積場所の推定

決定木の説明変数として航空機レーザー測量によって取得した1m解像度DEMを用いて8種類の地形特徴量(標高,傾斜量,水平曲率,横断曲率,侵食高,未侵食高,土砂移動指数,湿潤度指数)を計算し,それぞれの地形特徴量の記述統計量を50mメッシュで集計した.また,2000年11月撮影の空中写真から判読した火山泥流の発生・堆積域を後述の50mメッシュに変換して目的変数とした.

決定木を作成した結果,重み付けをした判定効率表から正解率68.85%,カッパ係数0.528のツリーが得られた.得られたツリーとツリーの末端部を地図化したものを図1に示す.

図1からツリーの末端は以下のような分布をしている.侵食1は雄山山頂に近く,2000年噴火により大量の火山灰が降下・堆積し,降水による侵食のために火山泥流の発生域となる.雄山東側では,侵食1で発生した泥流が侵食2・侵食3で発生した泥流と合流して堆積2・堆積4・堆積6の谷に添って海岸部まで流下する.海岸部まで流下した泥流は,海岸近くの平坦部で堆積4の流路を越流し堆積5に堆積する.雄山西側では,侵食1で発生した火山泥流は堆積1および堆積3のメッシュ(旧村営牧場近辺)に堆積する.侵食2および侵食3からは,堆積1および堆積3への泥流堆積の二次侵食と雄山西側中腹に降下堆積した火山灰を侵食して泥流が発生する.その後は堆積2・堆積4・堆積6の谷に添って海岸部まで流下し,海岸部まで流下した泥流は海岸近くの平坦部で堆積4の流路を越流し堆積5に堆積する.

3 泥流モデルを用いた泥流の到達時間及び到達範囲の計算

火山泥流の到達時間及び到達範囲を求めるため,泥流の数値シミュレーションを行った.前述の1m DEMを5m解像度にダウンスケーリングし,三宅島の3エリア(神着エリア,坪田エリア,夕景浜・村営牧場エリア)で計算を行った.神着エリアではカルデラ頂上付近で発生した泥流はおよそ1時間で神着に到達する.流下する谷沿いには数カ所の砂防ダムがあり,泥流の到達を遅延させる効果があることがわかった.また,村営牧場・夕景浜エリアでは泥流発生後20分で旧村営牧場に泥流が到達し,そこからは約40分後に夕景浜まで達する.坪田エリア(図2)では泥流発生後18分で集落近くまで泥流が達するが,集落自体は泥流の被害をさほど受けない.これは決定木の結果と整合している.ただし,海岸沿いの一周道路で泥流が橋梁を越流し,道路に沿って広がる様子が認められた.また,災害時の避難所になっている三宅島レクリエーションセンターに泥流が直撃することがわかった.

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