日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P010
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佐賀県における地域おこし協力隊員のライフパス分析
*植松 尚太岩木 雄大黒田 圭介
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抄録

1. はじめに

地域おこし協力隊は,地域PRや農林水産業などを職業とする人材を条件不利地域へ定住・定着を促す取り組みで,その隊員の多くは大都市から自主的かつ能動的に移住してくる特徴をもつ1)。このような隊員が移住後に直面する課題2)や,定住・定着を促す方法3)についての研究は多くなされている一方で,彼らが協力隊着任までにどのような人生を送り,どのような職業を経験し,どのような考えで移住してきたかに関する報告はあまり見られない。これを明らかにできれば,都市部から地方への人口移動の特徴的な一形態を示すことができる可能性がある。

ここで,本研究では「ライフパス」を用いて隊員の着任以前までの生涯を俯瞰し,さらに,聞き取り調査によって詳細な彼らの経歴を明らかにする。以上をまとめて,佐賀県に着任する都市部からの移住者の特徴を明らかにする。なお,ライフパスとは時間地理学における概念ツールの一つである活動パスのうち,個人の生涯の時間と空間の広がりを1本の軌跡として表現するものである4)

2. 研究方法

佐賀県の協力隊員のうち,2024年5月時点で活動している6名に対して聞き取り調査を実施した。その内容はいつ(時間)・どこ(場所)で生活していたかを尋ね,ライフパスを明らかにしつつ,それぞれで何をしていたかというライフイベントを明らかにする。

3. 結果

隊員のライフパスを図1に,隊員の応募動機や職歴,活動内容を表1に示す。図1の横軸は佐賀県からの距離順に都道府県をプロットしている。調査を実施した隊員の平均年齢は40.6歳(24-59歳),平均移動回数は4.3回(1-9回),着任以前の平均転職回数は2.1回(0-4回)であった。まず,出生場所について,佐賀県を含む日本各地に及んでいることが分かった。一部,幼少期に引っ越しを経験している隊員がいたが,高校卒業後は,出生場所とは異なる場所へ進学や就職のために転出した。新卒採用であるf氏を除く5名は初就職後,平均5.25年(1-11年)ではじめの職場を退職し,着任までに約2つの異なる職種を約2か所で経験した。例えば,a氏は京都府の染織工房へ初就職したのち,結婚を機に上京し,出産を契機に子どもへ興味が湧き,東京都で幼稚園の課外講師など教育関係の職に従事した。e氏は福岡県内で長年生活を送っているが,職種は表1に示すように複数ある。

次に表1をみると,経験した職種と協力隊着任後の活動内容が一致しないことがみてとれる。例えば,b氏は理系研究職や法人営業などの職務を経験している一方で,協力隊では林業従事者になるために実際に森林へ入り間伐作業を実施したりするなどの活動を行っている。

最後に,動機については,田舎暮らしへのあこがれや起業目的,地域住民からの誘いが挙げられた。例えば,a氏やb氏,e氏は都市部での生活を脱却し,中山間地域をはじめとする田舎での暮らしを実現するために協力隊へ応募したと話した。f氏については,大学の研究室と氏が活動する地域の間で地域活性化に関する共同プロジェクトを実施しているかかわりがあり,氏もその地域で実地調査を重ねるなかで,協力隊への誘いがあったことが分かった。

4. 考察(まとめにかえて)

佐賀県における協力隊は,新卒で着任した者を除き,ある程度短いスパンで職を転々としており,2種以上の職種を経験している中堅世代が多い。第一次産業経験者がおらず,比較的第二次産業従事者だった者が多い。協力隊への応募動機としては,着任以前までの生活からの変化を求め,自身の目指す生き方を追求した者が多く,この点に関して,鈴木ら(2023)も同様の指摘をしている 5)

以上より,協力隊に焦点を当てた都市部から地方への人口移動の特徴は,それまでの生活を変化させ,自身の目指す目的を実現するために,職歴との関連性の有無によらず,自身が活動したいことが実施可能な環境であれば,隊員にとっては縁もゆかりもない,関東圏等から離れた佐賀県へ自主的・能動的に移住してくるとまとめることができる。

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