主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2024年日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2024/09/14 - 2024/09/21
本報告の目的は以下の2点である。
①小規模漁業をとりあげる意味
高校の教科書をみると,漁業の説明はすこぶる少ない。内容は,FAO統計ほかを用いた世界の主要漁場における漁業を把握し,主要な漁業国を理解することにある。ここで展開される漁業のイメージは,「比較的規模の大きな商業漁業」である。しかしながら,世界の漁業の90%以上が自給的漁業を含む小規模な商業漁業とそれを担う小規模漁業者(漁民)からなる(Berks et al.2001)。こうした漁業形態から地域に生じる問題,さらには世界的な漁業問題を俯瞰することが重要であると考える。
②小規模地域研究における系統地理学と地誌学との関係
地理学者は,系統地理学的な研究を進めるなかで,地域を「理論検証の場」として扱う場合がほとんどである。報告者は,小規模な漁業地域において,漁業地理学における生態学的視点(人間―環境関係)に注目して漁場利用の時空間を研究してきた。しかし個別地域での定着調査を繰り返すことによって,これだけにはとどまらない様々な問題が見出された。そのため,不十分ながら,経済地理学的(漁業経済学を含む)視点,集落地理学的視点,政治地理学視点,文化地理学的視点などを理解しながら,諸問題を考察してきた。このようなかたちでの地域の理解の総体を,系統地理学的研究の蓄積ではなく,地誌学と呼んでみたい。これは,かつて藪内芳彦(1976:未発表)が問うた「地理学に家を建てる」という考え方に近い。藪内は系統地理学を個別の建築材料にたとえ,完成した「完全な家」を地誌学であり,地域研究の最終目標であると考えた。以上のことをふまえ,総合としての地誌学的研究の立場を考察することを2番目の目的とする。 本報告では,マレー半島の小規模な商業漁業地区パリジャワを事例地域とし,1991年から2019年までに実施した7回の長期・短期の現地調査から明らかとなった漁業に潜む各種の問題をとらえ,これを「漁業地誌」として定位してみたい。