日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P026
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神奈川県松田町における駅前商店街の機能変化
―店舗構成と土地利用の変化に着目して―
*高杉 航大大西 沙武木村 ことの山邉 勇和鈴木 修斗
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抄録

Ⅰ. はじめに 

 近年,日本の地方都市における中心商店街の衰退が問題になっている.そうした中で,全国各地で商店街の振興が注目されている.地理学では,地方中小都市の中心商店街で展開される再生の試みに関する研究がなされてきた.商店街の変容過程には,それぞれの地域によって差異があり,その差異は店舗構成や土地利用などの条件の違いによるものと解釈できる.商店街の変容過程の背景を知る上では,商店街の歴史的な変遷を明らかにすることが有効な手法であると考えられる.また,中心商店街の活性化やまちづくりに取り組む主体の動きにも注目する必要がある.

 本研究では,神奈川県松田町の中心市街地内に位置する駅前通り商店街(ロマンス通り商店街・仲町通り商店街・ファミリー通り商店街)を事例に,商業環境の変化を踏まえたうえで,店舗構成と土地利用の変化の分析をもとに,商店街の変容を明らかにすることを目的とする.

 本稿では,駅前通り商店街の店舗構成や土地利用の変化に着目して,その変遷を分析する.さらに,商店街の各店舗や松田町役場,足柄上商工会に聞取り調査を実施した結果から,商業環境の変化を分析する. なお,駅前通り商店街の店舗構成と土地利用の変遷については,1983年と2004年のゼンリン住宅地図および2024年9月に実施した土地利用調査の結果を比較分析した.

Ⅱ. 松田町における駅前商店街の変遷

 1983年の土地利用で特徴的な点としては,中央部に農地が残っていることである.松田地域での商品生産農業の主体はみかん,茶が中心で全体の50%以上を占めていた.1970年以降過剰生産による価格の暴落で経営困難に陥り,他産業へ移動したり,宅地として耕地を手放したりする者もあらわれた.しかし,この果樹生産の名残が1983年時点ではまだ町に残っていたと考えられる.

 2004年は1983年に比べて,住居が増え,倉庫などとして利用される空き地や事務所などが増え始めた.しかし,小売り・サービス業の店舗の数は1983年に比べ減少しており,住居へと建て替えが進んでいる.

 2024年は2004年に比べて,空き家が増加し,さらに小売店の数も減少している.そして,空き地を駐車場に転換する動きがみられる.店舗構成に着目すると,1978年から2024年にかけて全体の店舗数は増加している.サービス業をみると,居酒屋・スナックは1店舗から17店舗と大幅に増加し,飲食店でも8店舗から15店舗と増加している.このことから,松田町の商店街は居酒屋や飲食店が支えていることがうかがえる.

Ⅲ.まとめ

 本稿の知見は以下の3点にまとめられる.第1に,2024年現在営業している店舗の多くは老舗店である一方で,新規店は居酒屋をはじめとした新規開業の飲食店が増加している.第2に,駅前中心商店街では空き家・空き地が増加しており,空き地を駐車場に転換する動きがみられる.第3に,各商店の売り上げは減少傾向で,後継者不足の問題から商店街の衰退が進んでいることが明らかになった.

 松田町特有の店舗構成や取り組みによって,商店街を維持しているものの,空き店舗が増加していることから,衰退が進むと考えられる.しかし,松田町では行政を中心とした新松田駅前周辺の再開発が計画されており,住みやすく賑わいのあるまちへの変容を目指す動きもある.

※本研究はJSPS科研費(23K18738,23K28330)の助成を受けたものである.

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