目的:上顎部分床義歯に設置されるパラタルバーの装着嚥下時の違和感を客観的に評価することを目的として,ワイヤレスの小型の機能的近赤外線分光法(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS)を用いパラタルバーの前後的設定位置が嚥下時の前頭極における脳血流動態(oxy-Hb 濃度変化)に及ぼす影響を検討した.
方法:被験者は顎口腔系に異常を認めない欠損歯のない健常者31名とした.口蓋部に設定した前,中,後パラタルバーの装着時の口腔違和感をパラタルバー未装着時と比較するため,水嚥下終了時点からのoxy-Hb濃度変化波形を5回分加算平均し,正規化処理を行い分析した.またバー未装着時の嚥下時の波形をベースラインとし,パラタルバー装着時の波形との差分波形積分値から各パラタルバー条件に対する嚥下時脳活動の差を検討した.違和感の主観的評価(visual analogue scale:VAS)も合わせて記録した.
結果:水嚥下時に前頭極のoxy-Hb濃度は上昇し,嚥下終了後数秒でピークを迎えるが,特に,後パラタルバー装着時に右側前頭極において大きな振幅を示した.未装着時の波形との差分波形積分値は,後パラタルバー装着時が中パラタルバーより有意に大きくなった.嚥下時違和感のVAS値は,パラタルバーが前方より後方において有意に増加した.
結論:前,中,後パラタルバーの順に,主観的な嚥下困難感は増加し,特に脳活動は中と後パラタルバーの間で差が認められた.口腔内感覚を客観的に評価する手法として,fNIRSを用いる手法の可能性が示唆された.