2020 年 12 巻 3 号 p. 234-242
咀嚼機能が低下すると,糖質の摂取量が増加する一方,低GI食品,タンパク質,食物繊維,抗酸化物質,ビタミン・ミネラルなどの摂取量が低下する.この高糖質・低栄養状態が続くとメタボリック症候群やフレイル,さらには非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases=生活習慣病)の発症リスクの上昇につながる.歯科補綴治療は,低下した咀嚼機能を顕著に回復させるだけでなく,全身の疾患リスクの低減,体組成の改善,健康増進に直結する医療技術である.従来その目的が審美回復や口腔保健にのみ向けられていた歯科補綴治療は,今後は健康寿命延伸やNCDsの発症予防,重症化予防の分野において,これまで以上に評価,注目されるべきであると思われる.
本稿では,歯科補綴の最終評価指標を健康増進に関係する項目に広げ,歯科補綴前後に行う保健指導の具体的運用について提示する.まだ体系化の途上ではあるが,口腔疾患管理に全身の健康チェックアップ機能を付加した新たな診療体系と,健康寿命延伸への大切な役割が,これからの歯科には求められている.