日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
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ISSN-L : 1883-4426
12 巻, 3 号
令和2年7月
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
訂正とお詫び
依頼論文
◆企画:日本補綴歯科学会学術賞受賞記念論文
  • 矢谷 博文
    原稿種別: 依頼論文
    2020 年12 巻3 号 p. 209-224
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    目的:オールセラミックカンチレバーブリッジの生存率,成功率と合併症に関する系統的文献レビューを行い,評価すること.

    方法:オールセラミックカンチレバーブリッジの生存率,成功率,失敗のリスクファクターならびに合併症について記載された文献について,適切なMeSHの選択と包含基準の設定を行ったうえで,PubMedからコンピュータオンライン検索を行った.検索された文献の抄録を精読してさらに文献を絞り込み,最終的に15論文を選択し,レビューを行った.

    結果:得られた結果は以下のとおりである:1)生存率と成功率の考察は,異なる10のコホートの患者302人,ブリッジ381個の臨床成績を対象とした,2)MIを具現化する少数歯欠損補綴法としてのカンチレバーブリッジ,特に接着カンチレバーブリッジの生存率,成功率は高く,2リテーナー型の接着ブリッジよりも優れた臨床成績が得られている,3)症例選択はカンチレバーブリッジ成功の重要な要素であり,欠損部位としては,上顎側切歯,上顎中切歯,下顎切歯,上下顎小臼歯が適しており,欠損歯数は1歯で支台歯は生活歯であることが望ましい,4)使用材料としては,最近はガラスセラミックスに代わって高密度焼結型ジルコニアが用いられるようになっており,材料として最も適切と考えられる,5)合併症の出現率は総じて低く,特に生物学的合併症の出現頻度はきわめて低く,ほとんどが脱離をはじめとする技術的合併症である,6)接着カンチレバーブリッジを成功に導くためには,2リテーナー型接着ブリッジにおいて確立された接着技法を遵守することが重要であり,装着にはMDP含有の歯科用接着材が適している.

    結論:オールセラミックカンチレバーブリッジ,特に接着カンチレバーブリッジの生存率,成功率は高く,また従来型2リテーナー型ブリッジを上回る利点を多く有し,メタルフレームを用いたカンチレバーブリッジとともに少数歯欠損補綴法の1オプションに加えられるべきである.

学会見解
依頼論文
◆企画:第128 回学術大会 歯科医療安全対策推進セッション 「診療室・技工室における作業環境」
  • 森本 泰夫, 和泉 弘人, 友永 泰介, 西田 千夏
    原稿種別: 依頼論文
    2020 年12 巻3 号 p. 227-233
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

     歯科技工士の職場では,さまざまな化学物質が取り扱われており,中でもコバルト,クロム,クリストバライト,インジウムなど有害性の高い化学物質も使用されている.インジウム取り扱い作業の労働衛生管理は,国から通達としてすでに発出されているので,インジウムとインジウム以外を区別して労働衛生管理を紹介する.インジウム以外の化学物質の労働衛生管理(ここでは一般的に行われている化学物質の労働衛生管理)において,主に実施されていることは,当該化学物質の濃度測定,局所排気装置,適切なマスクの着用,じん肺などの特殊健康診断の実施等である.歯科技工士の労働環境は,粉じん障害防止規則では粉じん職場としてリストアップされていないが,歯科技工士のじん肺症例や疫学的にもじん肺を発症することが報告されていることから,粉じんに対する労働衛生管理を十分に浸透させる必要があると思われる.

◆企画:九州支部学術大会 「栄養・運動と全身の健康の架け橋を担う歯科補綴」
  • (健康増進・栄養サポート分野)
    武内 博朗, 寺田 美香, 小林 和子, 花田 信弘
    原稿種別: 依頼論文
    2020 年12 巻3 号 p. 234-242
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

     咀嚼機能が低下すると,糖質の摂取量が増加する一方,低GI食品,タンパク質,食物繊維,抗酸化物質,ビタミン・ミネラルなどの摂取量が低下する.この高糖質・低栄養状態が続くとメタボリック症候群やフレイル,さらには非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases=生活習慣病)の発症リスクの上昇につながる.歯科補綴治療は,低下した咀嚼機能を顕著に回復させるだけでなく,全身の疾患リスクの低減,体組成の改善,健康増進に直結する医療技術である.従来その目的が審美回復や口腔保健にのみ向けられていた歯科補綴治療は,今後は健康寿命延伸やNCDsの発症予防,重症化予防の分野において,これまで以上に評価,注目されるべきであると思われる.

     本稿では,歯科補綴の最終評価指標を健康増進に関係する項目に広げ,歯科補綴前後に行う保健指導の具体的運用について提示する.まだ体系化の途上ではあるが,口腔疾患管理に全身の健康チェックアップ機能を付加した新たな診療体系と,健康寿命延伸への大切な役割が,これからの歯科には求められている.

総説
  • 長澤 麻沙子, 河野 博史, 大久保 昌和, 秋葉 奈美, 峯 篤史, 魚島 勝美
    原稿種別: 総説
    2020 年12 巻3 号 p. 243-256
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

     歯学教育の大きな目標のひとつは臨床能力の獲得であり,十分な知識に裏付けられ,臨床における多様性に対応できる技能の習得は必須である.特に補綴臨床においては補綴診断能力のみならず,高い「臨床技能」が必須である.2020年度より一斉技能試験が診療参加型臨床実習後の客観的臨床能力試験(Post-CC CPX)の一部として正式に実施される予定であるが,これは社会的事情を背景として臨床実習の実施形態が大きく変化したことに対して,卒業時の歯学生の技能を担保するために社会に対する説明責任の一端である.また,2019年から補綴歯科学会において全国の歯学生を対象とした学生技能コンペティションが開催されることになった.そこで今回,補綴歯科における「技能教育」のあり方について,明確な到達目標,方略と評価について考えたい.質の高い歯科医師を輩出する責務を負う教育機関の一員として,特に補綴治療の専門家として「技能教育」を再考したい.

症例報告
  • 米澤 悠, 小林 琢也, 安藝 紗織, 小山田 勇太郎, 深澤 翔太, 原 総一朗, 近藤 尚知
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 257-263
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:歯科臨床への情報工学の導入が進む近年,有床義歯の分野においてもCAD/CAM技術を応用して義歯を製作することが可能となってきた.それに対して,印象採得や咬合採得は術者の技術が影響するためデジタル技術の応用が進んでいないのが現状である.本症例では,歯周疾患の進行により従来の精密印象採得を行うことのできない患者に対し,口腔内スキャナーを用いた光学印象を応用し,即時義歯の製作を行ったので報告する.患者は52歳の女性で移植手術に際し感染源の除去が必要と診断され当科を受診した.広汎型重度慢性歯周炎に罹患しており多数歯を抜歯し,即時義歯を装着する計画となった.しかし,従来法の精密印象採得では歯を抜去してしまう懸念があったため,精密印象採得,咬合採得を口腔内スキャナーにより行った.得られたデジタルデータからCADソフト上で抜歯予定歯の削除,人工歯排列を行い,設計した義歯データをSTLデータとして出力しCAMを用いて即時義歯を完成させ装着した.

    考察:本製作法は,新しい即時義歯の製作方法であり,歯周炎が進行した患者に対しても審美不良や咀嚼困難を最小限に抑え,安全に歯科医療を提供する治療法であると考える.

    結論:光学印象とCAD/CAM技術を応用して即時義歯を製作することができた.この新しい即時義歯の製作方法は,臨床応用が十分に可能な手法であることが示された.

原著論文
  • 山崎 裕太, 河村 篤志, 高嶋 真樹子, 荒井 良明
    原稿種別: 研究論文
    2020 年12 巻3 号 p. 264-271
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    目的:失活歯の予後調査では,築造体の脱離が経過不良の多くを占めることが報告されているが,脱離は多因子性に発生していることから原因の解明は難しい.われわれは脱離した築造体表面のセメント表層に気泡様の欠損が観察されたことに着目し,気泡混入が接着力へ及ぼす影響について検討した.

    方法:気泡混入評価として,根管充塡を施した透明樹脂根管模型にポスト孔を形成し,既製ポストと接着性レジンセメントを用いて接着した.接着は,使用器具3種類とセメント塗布部位3種類の組み合わせで9条件とし,画像解析にてセメントの気泡混入率および部位別の気泡混入率を評価した.また接着力試験として,牛歯に使用器具3条件で同様の手順で既製ポストを接着した試料を1 mm厚で横切断し,打ち抜き試験による評価を行った.

    結果:気泡混入率は,プラスチックニードルを使用しポストと根管にセメントを塗布した条件で有意に低くなった.また,気泡はポスト根尖側に集中している様相が観察された.打ち抜き接着力試験においては,ブラシ使用時にポスト根尖側で接着力の有意な低下を認めたが,他の器具では部位別の接着力に有意差は認めなかった.

    結論:気泡による非接着面の存在が接着力の低下を引き起こす原因の1つと考えられた.ポスト孔の最深部に届く器具を用いることで,気泡混入率を低下させ高い接着力を得られることが可能と考えられた.

  • 太田 桂資, 小出 馨, 佐藤 利英, 石井 麻水
    原稿種別: 研究論文
    2020 年12 巻3 号 p. 272-279
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    目的:歯科治療時の患者体位と頭位が,顆頭位に及ぼす影響についてはいまだ不明な点が多い.本研究では,歯科治療時における体位と頭位の前後的変化が顆頭位に及ぼす影響を明らかにする目的で,タッピング運動時の顆頭点の前後的変化ならびに上下的偏位量を測定した.

    方法:顎口腔系に機能異常を認めない健常者8名とした.被験者には,体位(基準位から50,60,70,80度後方傾斜)と頭位(基準位から10度後屈,0,10,20度前屈)をそれぞれ設定してタッピング運動を行った際の,左側顆頭点の前後的ならびに上下的偏位量を測定した.基準位は,体位0度,頭位0度とした.測定基準平面はフランクフルト平面,顆頭位測定点はBeyron’s pointとし,測定には改良を加えた三次元6自由度顎運動測定装置を用いた.

    結果:頭位の前後方向への変化が顆頭位に及ぼす影響については,前屈により顆頭は前方へ偏位し,頭位0度と頭位10度前屈,頭位0度と頭位20度前屈,頭位10度後屈と20度前屈で有意差が認められた.また上下方向では,頭位10度前屈と頭位20度前屈間,頭位0度と頭位20度前屈間,頭位10度後屈と頭位10度前屈間,頭位10度後屈と頭位20度前屈間でそれぞれ有意差が認められた.体位の変化が顆頭位に及ぼす影響は少なかった.

    結論:歯科治療時においては,体位と頭位の変化が顆頭点の偏位に影響を及ぼす可能性があり,咬合に関与する治療時には患者の体位と頭位,特に頭位に対しては十分注意する必要があることが示唆された.

専門医症例報告
  • 鬼原 英道
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 280-283
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は,19歳男性.下の前歯にインプラント治療ができるか相談したいとの主訴で来院した.高所での作業中に顔面から転落し,下顎骨骨体正中部粉砕骨折などで,下顎前歯部の広範囲の顎堤欠損を生じた.同部位に口腔外から腸骨移植を行い,その後にインプラントや歯冠補綴による補綴処置を行った.

    考察:本症例では,広範囲の骨欠損に対し,腸骨移植および遊離歯肉移植術を併用することにより機能的で審美的なインプラント補綴を行うことができた.

    結論:現在のところインプラント周囲組織は良好であるが,移植骨の骨吸収に関しては,注意深く経過観察を行っていく必要があると考えられる.

  • 覺道 昌樹
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 284-287
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は66歳女性.主訴は「見た目が悪いから上の歯を入れて欲しい.」であった.上顎前歯部の不適切なブリッジによる審美障害および臼歯部欠損による機能障害と診断した.|4565|にハイブリッド型レジン前装クラウン,(2)(1)|1(2)(3)(4)(3)(2)1|12(3)(4)(5)にハイブリッド型レジン前装ブリッジおよび543| 67および|67に可撤性義歯を用いて咬合再構成を行った.

    考察:垂直的顎位をクラウンブリッジで確立し,最終補綴装置は主として歯根膜支持の補綴装置を装着した.また維持装置の設計にも配慮し,審美性の確保に努めた.

    結論:ハイブリッド型レジン前装のクラウンブリッジと可撤性義歯によって咬合再構成と審美性が得られた.

  • 三輪 俊太
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 288-291
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:初診時66歳の男性.妥協的メインテナンス中に,顎堤部疼痛を訴えた.上顎右側,下顎左側に動揺歯を認め,対向する上顎左側,下顎右側顎堤は著しく吸収していた.慢性辺縁性歯周炎ならびに義歯不適合に起因する咀嚼障害と診断した.前処置と義歯製作について同意を得た後,動揺歯の抜歯,下顎残存歯の根管治療を行い,磁性アタッチメントの装着,根面板の装着を行った.上下顎ともに金属床の全部床義歯を製作した.

    考察:加圧因子を減少させ,咬合平面を是正したことにより力学的安定性が向上したと考えられる.

    結論:オーバーデンチャーはすれ違い咬合に対し咬合の均衡を図ることができる効果的な治療法の一つである.

  • 三原 佑介
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 292-295
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は69歳の男性で,下顎全部床義歯の床下粘膜の疼痛と咀嚼困難を主訴に来院した.上顎義歯は咬耗以外に問題は認めなかったが,下顎義歯は床縁,適合,咬合,人工歯排列位置など多くの問題を認めた.まず,下顎義歯のみを暫間義歯として製作し,上顎義歯は人工歯咬合面の修理を行った.その後,閉口印象法を用いて上下顎全部床義歯を製作した.

    考察:治療終了後は良好に経過している.早期に機能回復を行い,良好な患者との関係を構築できたことも,最終義歯の患者満足度の向上につながったと考えられる.

    結論:旧義歯の問題点を的確に抽出し,暫間義歯製作と義歯修理を選択したことで,早期に機能回復を行うことができた.

  • 秋葉 陽介
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 296-299
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:患者は52歳の女性,下顎両側臼歯部欠損による咀嚼障害と下顎前歯部歯列不正と診断された.矯正治療終了後,すれ違い咬合傾向と咬合高径低下が認められた.プロビジョナルブリッジと治療用義歯によって咬合高径を回復し,インプラントプロビジョナルブリッジにより咬合支持を得て,硬質レジン前装冠ブリッジおよび,陶材焼付前装冠ブリッジにより最終補綴を実施した.

    考察:すれ違い咬合傾向を示す本症例においてはインプラントにより適切な下顎位や咬合支持を回復し,難易度の上昇と咬合崩壊のリスクを回避した.

    結論:最終補綴により咀嚼機能,審美性の回復,口腔関連QOLの向上が認められた.

  • 本田 実加
    原稿種別: 症例報告
    2020 年12 巻3 号 p. 300-303
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/13
    ジャーナル フリー

    症例の概要:歯科恐怖症により長期間歯科医院を受診せず,審美不良および咀嚼困難を主訴として来院した患者に対して,歯科補綴治療を行い,審美および咀嚼障害を改善し高い満足度を得た.

    考察:初診時の問診から恐怖を抱くようになった原因を考慮し,診療に徐々に慣れさせることで,円滑に全顎的な歯科補綴治療を進めることが可能になった.治療用義歯の段階で審美性,咀嚼能力ともに向上したことが患者のモチベーションを高めたと考えられる.

    結論:歯科恐怖症の患者に対して,歯科恐怖症の原因を考慮して歯科補綴治療を進め,口腔内の機能および審美の改善を認識させることで良好な経過を得ることができた.

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