2020 年 12 巻 3 号 p. 257-263
症例の概要:歯科臨床への情報工学の導入が進む近年,有床義歯の分野においてもCAD/CAM技術を応用して義歯を製作することが可能となってきた.それに対して,印象採得や咬合採得は術者の技術が影響するためデジタル技術の応用が進んでいないのが現状である.本症例では,歯周疾患の進行により従来の精密印象採得を行うことのできない患者に対し,口腔内スキャナーを用いた光学印象を応用し,即時義歯の製作を行ったので報告する.患者は52歳の女性で移植手術に際し感染源の除去が必要と診断され当科を受診した.広汎型重度慢性歯周炎に罹患しており多数歯を抜歯し,即時義歯を装着する計画となった.しかし,従来法の精密印象採得では歯を抜去してしまう懸念があったため,精密印象採得,咬合採得を口腔内スキャナーにより行った.得られたデジタルデータからCADソフト上で抜歯予定歯の削除,人工歯排列を行い,設計した義歯データをSTLデータとして出力しCAMを用いて即時義歯を完成させ装着した.
考察:本製作法は,新しい即時義歯の製作方法であり,歯周炎が進行した患者に対しても審美不良や咀嚼困難を最小限に抑え,安全に歯科医療を提供する治療法であると考える.
結論:光学印象とCAD/CAM技術を応用して即時義歯を製作することができた.この新しい即時義歯の製作方法は,臨床応用が十分に可能な手法であることが示された.