抄録
目的:歯科治療に要する時間を明らかにすることは,医療経済において重要である.しかし,治療の難易度,術者の熟練度,治療環境などによる影響を明らかにするために,実際のタイムスタディをさまざまな条件下で行うことには限界がある.そこで,まず総義歯治療における治療時間を明らかにするために,歯科医師が必要と意識している治療時間について患者の難易度ごとに調査を行った.今回はさらに,実際に患者資料を見たうえでの歯科医師の治療時間に関する意識を調査し,実際の治療時間との関係を明らかにすることを目的とした.
方法:難易度の異なる無歯顎補綴3症例を日本補綴歯科学会の専門医(臨床経験14年)が実際に診療を行い,その所要時間を記録した.当教室員(20名)にこの3症例の口腔内写真,研究模型,症型分類の調査用紙を提示し,各診療ステップの診療時間と回数の意識調査を行った.後日,前回の資料に加えて,調査結果を集計し,臨床経験で3つに区分(5年未満,5年以上,すべて)したグラフを提示して同様に調査を行った(デルファイ法).また,各診療ステップでの資格の有無(専門医以上)と症例の難易度の意識調査を2元配置分散分析にて解析した.
結果:今回の調査結果から,実際の治療時間と歯科医師の意識は,症例の難易度による差はあるものの平均値においては差がないことが判明した.咬合採得や最終印象など,術者の熟練度の影響が強く出る診療ステップでは難易度が増すとともに実際の治療時間も歯科医師の意識も長くなった.
結論:以上より,さまざまな条件下での意識調査を行うことで実際の患者を治療せずにタイムスタディの手法に応用できる可能性が示唆された.