日本補綴歯科学会誌
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特集:日本補綴歯科学会第121回学術大会 シンポジウム2「咬合咀嚼は健康長寿にどのように貢献しているのか」
咀嚼機能と長寿
―80歳住民での12年間コホート研究から―
高田 豊安細 敏弘
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2012 年 4 巻 4 号 p. 375-379

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抄録

目的:80歳の後期高齢者地域住民の咀嚼機能や現在歯数を保つことが長寿に繋がるかどうかを,92歳までの12年間コホート研究で検討した.
方法:福岡県在住の80歳住民1,282名中平成10年健診に824名が参加した.824名中782名の生死を12年間追跡した.15個の食品数をいくつ咀嚼可能かどうかで咀嚼機能を判断した.80歳時の咀嚼可能食品数0~4個,5~9個,10~14個,15個すべての咀嚼機能4群に分けた.また,80歳時の現在歯数で0本,1~9本,10~19本,20本以上の4群に分けた.咀嚼機能・現在歯数と80歳から92歳までの12年間生存・死亡の関係をKaplan-Meier法とCox比例ハザード回帰分析で検討した.
結果:12年間で276名が生存し506名が死亡した(生存率35.3%,死亡率64.7%).死亡506名中で主要な死因は心血管病死128名,呼吸器病死96名,癌死87名,老衰死51名であった.咀嚼不良群は咀嚼軽度不良群,咀嚼軽度良好群,咀嚼良好群よりも有意に生存率が低かった.現在歯数4群と累積生存率の関係には有意差を認めなかった.性別を補正したCox比例ハザード回帰分析で咀嚼良好群の死亡率を1とすると咀嚼不良群2.1倍,咀嚼軽度不良群1.4倍,咀嚼軽度良好群1.3倍とそれぞれ有意に死亡率が高かった.現在歯数4群でも性別を補正すると,20本群に比べて0本群は死亡率が1.5倍,1~9本群は1.4倍有意に高値だった.咀嚼できる食品数が1品増えると死亡率が4.4%減少し,現在歯数が1本増えると死亡率が1.5%減少した.さらに,性別のほかの交絡因子でも補正した.咀嚼4群と死亡率の関係は交絡因子に日常生活活動度(ADL)と肥満度(BMI)を加えると有意度が低下した.また,現在歯数4群と死亡率の関係はADLと喫煙を交絡因子に加えると有意度が低下した.
結論:咀嚼食品数からみた咀嚼機能が良好なほど長寿であったが,この関係には一部ADLとBMIが影響していた.現在歯数が多いほど長寿の傾向にあったが,この関係にはADLと喫煙が一部関係していた.80歳住民という後期高齢者でも,現在歯数を保ち咀嚼機能を維持することが長寿に直接繋がると考えられた.

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© 2012 社団法人日本補綴歯科学会
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