抄録
【目的】
『アンネの日記 -研究版-』(深町眞理子訳、文藝春秋社、1994、12月)(オランダ語版“De Dagboeken van Anne Frank”, Uitgeverij Bert Bakker社、英語版 The critical edition of “The Diary of Anne Frank”, VIKING社)は、アンネ・フランクが書き残したオリジナル日記原稿の全てを網羅・編集して出版された版であり、それまでに出版されていた、オリジナル原稿から一部削除された版との比較や、アンネ自身が書き直した箇所の把握が可能となった。そこで、この研究版に記載された食物関連事項を調査することにより、アンネがもともと書き残した“食べ物”を探り、これまで筆者が行ってきた「隠れ家」での食生活の様子の検討の補足を行った。
【方法】
従来筆者が調査していた『アンネの日記 -完全版-』(深町眞理子訳、文藝春秋社、1994、4月)の食物関連事項と『アンネの日記 -研究版-』のそれとを比較検討し、両者の間での相違を検討した。
【結果】
調査の結果、従来検討してきた「隠れ家」生活の食糧を取り巻く経過(平穏期→悪化期→困苦期)に大きな変化はないが、研究版には、これまでに抜粋してきた食品には見られなかったもの(うなぎ)や、以前は製品のブランド名などが削除されて書かれていたもの(チョコレート会社ドロステ社)のあったことがわかった。また、「隠れ家」の表の顔であるヒース商会への戦中の胡椒の注文内容などが見られた。