【目的】
これまで太田らは、ゴマ13Sグロブリン、米グロブリンの加熱誘導ゲル形成時において、炭素鎖長10以上の脂肪酸塩添加が、ゲルに均質なネットワーク構造を与え、保水性向上に有効であると報告した。本研究は上記の添加効果を有効利用する一つの試みとして、小麦タンパク質と脂肪酸塩の混合型可食性フィルムの創出を試み、その形成機構を調べた。
【方法】
小麦タンパク質であるグリアジンと、炭素鎖長18の一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)のナトリウム塩である、オレイン酸ナトリウムを用いて、コンポジットフィルムの創出を試みた。また、可塑剤として使用されるグリセロールを添加したフィルムと比較をし、その機械的特性(曲げ強度)、水蒸気透過性を明らかにするとともにフーリエ変換赤外分析によって、フィルム化の機構をタンパク質の二次構造レベルで解析した。
【結果】
フィルムの曲げ強度では、オレイン酸ナトリウム添加により、フィルムの強度はやや増加し、グリセロール添加により、さらに強度が増加する傾向が示された。水蒸気透過性比較では、オレイン酸ナトリウム添加フィルムは水蒸気に対するバリヤー性に優れたフィルムであり、その値は無添加の1/2、グリセロール添加フィルムのおよそ1/10だった。FT-IRを用いたゾル~フィルム形成に至る過程の二次構造変化を調べた結果は、ゾルからフィルムに変化する過程でいずれも分子間βシートを示すピークの面積比が増加した。また、若干ではあるが二次構造を示すピークがいずれも低波長側にシフトする傾向にあり、この事はタンパク質分子内の水素結合が強くなったためと示唆された。