抄録
Abstract:[目的]魚醤油は大豆醤油に比べ、旨味に富んだ発酵調味料で、近年加工食品の隠し味などで需要が増えている。今回、従来の魚醤油の長期間熟成に代えて、黒酢麹菌由来の酵素使用による熟成促進、更には本魚醤油の特性を生かした料理について検討した。
[方法]キビナゴの頭部、内臓および骨を除去し、魚肉濃度37.5%、食塩濃度25%にしたもの各800gを6試料調製し、各3試料をpH5.0とpH8.0に調整した。それぞれ1試料を酵素無添加の対照とし、他の2試料を酵素添加群とした。供試した酵素は黒酢醸造に使用する麹菌の小麦フスマ培養物から抽出し、硫安濃度60-100%飽和沈殿画分の透析内液を酵素標品として用いた。黒酢麹菌は酸性域に活性を持つものと中性からアルカリ域に活性を有する2種類のプロテアーゼを産生することから、本速醸試験では、pH5.0とpH8.0に調整したものに、酵素液を1.25%と3.75%添加して熟成を行った。30℃で30日間培養し、その間の熟度指標として、全窒素、アミノ態窒素、275nmの吸光度測定と、薄層クロマトグラフィー(TLC)による生成アミノ酸の定性を行った。旨味の生成は官能評価によった。
[結果]酵素添加群は培養1日目から旨味の生成が認められ、培養日数が増すにしたがって旨味は顕著となり、いずれの熟度指標測定値も顕著に上昇した。官能評価では、pH8.0のアルカリ処理群では魚臭さが後味として残り、一方、pH5.0の酸性処理群では魚臭さがなくすっきりした旨味を呈した。TLCによる生成アミノ酸の定性結果から、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、ロイシン、イソロイシンなどが顕著に増加した。種々のだしとの併用で相乗効果により旨味が増強される傾向にあった。