抄録
目的 紀元前から世界各地に多くの発酵食品が人々の生活を支えてきた。パンもその一つであり、世界中で食されている。パンは、市販酵母により一般的に作られているが、世界のパンと日本の天然酵母パン欠片から、パン作りに関与する微生物の実態把握とパン中のタンパク質の特徴を探ることを目的とした。実験方法 試料は、世界から収集したパン欠片約800種の中から小麦や大麦、米、いも、とうもろこしなど主要農作物の異なる世界各地のパンと日本各地の天然酵母パンとした。パン中の微生物をライト染色法により観察し、パン欠片を凍結乾燥後、0.5MNaClにより抽出した。タンパク質含量はフォーリン法により、またSDS電気泳動法および抗原抗体反応法、HPLCによるアミノ酸組成分析を行った。結果および考察 主要農作物に関わらず、世界のパン全てに酵母以外にも形態の異なる乳酸菌などの微生物が存在しており、小麦タンパク質の分解が多く見られ、小麦アレルギー患者の反応するタンパク質が減少していた。天然酵母パン中のスターターにより微生物の形態や存在に違いが見られた。また、世界各地のパン同様、小麦タンパク質の分解が多く見られ30kDa付近の小麦タンパク質の減少が見られたものもあった。今回、用いた低アレルゲン表示のある天然酵母パンは、アレルゲン部分が残っているものもあり、卵や牛乳などを含んでいないことを表示にしたことが考えられる。日本各地の天然酵母パンは、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、GABAを多く含んでおり、これらによって、天然酵母パン特有の風味が生まれることが明らかとなった。