日本調理科学会大会研究発表要旨集
平成29年度大会(一社)日本調理科学会
セッションID: 1P-52
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ポスター発表
鹿児島県薩摩川内市上甑里地域の食と生活
森中 房枝*東 愛奈
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抄録

【目的】本調査地の薩摩川内市上甑島里町は海底の砂礫が水面上に現れた陸繋砂州で結ばれた「トンボロ地形」の上にできた1,200名ほどの集落である。玉石垣の武家屋敷群もあり,小川氏統治時代の風情が忍ばれる。食文化も海の幸に恵まれ,里・山のものを上手に利用して独自の文化を育んできた。また島内に高等学校がないために子どもたちは中学卒業時に「島立ち」を余儀なくされる。過疎化が進む中にあって,食文化の継承が懸念されることから,伝統食の掘り起こしを図るために調査を行った。
【方法】平成22年「甑島里町の郷土料理の実態調査」を里地区在住者100名(20~80代)に対して行った。郷土料理の認知度を料理別に分類し,次世代に伝え継ぎたい郷土料理の伝達方法を探った。さらに平成26年に聞き書き調査と,里村郷土誌や薩摩川内市こしき島レシピ集をもとに文献調査を行い,料理の裏付けや,由来等について調査した。
【結果】上甑里町は川内川河口から300km西方の東シナ海上に位置し,交通の便が悪く,地域間の交流が少ない中で,生活文化が発達してきた。このため郷土料理や伝統文化など独自のものを持っている。認知度について料理別に分類した結果,ご飯物では「こっぱん餅」「かけまぜめし」,野菜料理では「しおけ」「つわの佃煮」など,本土では見かけない料理や,ユニークな料理名が多いのがわかった。食材入手が困難な中で,身近にある魚介類や保存食を上手く利用して生活を営んできた様子が伺える。多様なきびなご料理,かけまぜめしが集落によって材料が異なっていること,精進料理として伝えられてきた「しおけ(長野菜の煮物)」は最近では余り作られておらず,郷土料理の伝承が懸念されるところである。

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