【目的】食品への調味成分の浸透は製品の品質を左右する大きな要素である。しかし,調味条件の決定に関しては経験による判断が多く,工学的見地から合理的な設計がなされることは少ない。そこで,調味成分の移動現象を定量的に解析する手法の提案を試みた。モデル的な食品としてコンニャクおよび卵白ゲルを使用し,代表的な低分子量の調味成分としてグルコースに着目した。
【方法】コンニャクは市販品を用いた。卵白ゲルは乾燥卵白粉末をイオン交換水に溶解して卵白溶液を調製し,蒸気浴中で20分保持して固化させて作製した。これらを1cm立方に成形し,10~100mg/mLのグルコース水溶液に浸漬して,異なる温度(4~60℃)で24時間保持した。浸漬終了後,コンニャクまたは卵白ゲルを粉砕およびイオン交換水を用いて抽出し,抽出液のグルコースを定量することで,浸透したグルコース量を算出した。
【結果および考察】コンニャクおよび卵白ゲルに対するグルコースの浸透量(q[mg/g])を,浸漬溶液の濃度(C[mg/mL])で除することによって分配係数(KD=q/C[mL/g])を算出した。コンニャクに対するグルコースの分配係数は温度に大きく依存しなかった(4℃:0.76mL/g,25℃:0.74mL/g,60℃:0.68mL/g)。一方,卵白ゲルに対する分配係数は4℃と25℃でほぼ同じ(4℃:0.84mL/g,25℃:0.82mL/g)だったが,60℃では大きく増加した(1.27mL/g)。本結果により,高温で調味した卵白ゲルを調味液に浸漬したまま冷却すると,分配平衡が変化して卵白ゲルへのグルコース浸透量が変化することが示唆された。