【目的】塩漬けは、食塩を使って食品中の水分を減らし、保存期間を延ばすことを可能にしてきた。食塩で食品を漬ける場合、その品質と食品の安全を向上させるためには、食材中の食塩含量だけでなく、食塩の浸透についても理解することが重要である。しかし、これまでの食塩分布の測定方法は、時間がかかる、特殊で高価な装置が必要などの課題があった。そこで本研究では、簡便、迅速、低コストで食品中の食塩の分布を調べることを目的とし、モール法を利用し、食材中の食塩の可視化を試みた。【方法】試料として大根を用い、中心部分から直径6.5cm、高さ3cmの円柱形のサンプルを成形した。大根試料を0、0.5、1、2、4%の食塩水に25℃で1、3、6、12、24時間浸漬した。浸漬後、大根(表面、横断面、縦断面)に5%(w/v)クロム酸カリウム水溶液を塗布後、10%(w/v)硝酸銀水溶液を続けて塗った。常温で5分間放置後、表面の写真を撮影し、解析を行った。試料中の食塩濃度は、塩分計で測定した。【結果】0および0.5%の食塩水に浸漬した大根表面は赤茶色に、1%以上の食塩水に漬けた表面は黄色になった。これは大根中に浸漬した塩化物イオンが、硝酸銀と反応し塩化銀に変化したためと考えられる。浸漬した溶液中の食塩濃度が高いほど、また、時間が経過するほど、断面の黄色の部分が外側から内側に拡大し、その面積の割合が増加することが明らかとなった。大根の横断面および縦断面の黄色の面積が占める割合および塩分計で測定した食塩濃度の間には、0.89および0.91の相関係数が示された(P < 0.001)。本研究は、食材中への食塩の浸透を素早く可視化する方法として、利用できることが示された。