【目的】ベーカリー製品のテクスチャーはおいしさと密接に関わり,テクスチャー変化の客観的把握と制御は品質保持のための重要な課題である。本研究では力学的測定で捉えたクロワッサンとメロンパンの保存によるテクスチャーの変化について,パンの水分含量および澱粉の老化との関係を検討した。
【方法】パンを焼成後,保存を行わないものを対照試料とし,対照試料を袋に入れて温度(4℃,25℃)と時間(24 h,48 h)をかえて保存した試料,対照試料を再焼成した試料を実験に用いた。一軸圧縮試験による試料の破断特性(レオメーター),パン全体,表層から約5 mmの外層,および内層の水分含量(ハロゲン水分計)を測定した。老化特性として各試料の凍結乾燥脱脂粉末の吸熱特性(DSC)を測定した。
【結果】応力-歪曲線と初期弾性率から,対照および再焼成試料は圧縮初期に層状生地(クロワッサン)やクッキー生地(メロンパン)の破断が生じたことが示された。4℃および25℃保存ではいずれのパンも単調に応力が増大して初期の破断は見られず,応力-歪曲線の特徴は保存条件により異なった。水分含量は保存により内層では減少し外層では増加したものの試料全体では保存条件によらずほぼ同値であったことから,パン内部で水分が移行したと考えられた。25℃保存の方が水分移行が大きく,4℃保存の方が澱粉の老化を示すDSCの吸熱量は大きかった。前報の官能評価ではメロンパンの25℃保存は4℃保存よりもパサつきが大きく総合評価は低く,クロワッサンでは保存条件による評点の違いは小さかった。以上よりパンのテクスチャーには澱粉の老化に加えて水分移行の影響も大きいこと,パンの種類によっても影響の受けやすさが異なることが示唆された。