抄録
1966年にBleomycinが発見されて以来, 本薬剤は今日まで, 扁平上皮癌, 悪性リンパ腫などに使用されてきた。 この間, その抗腫瘍作用は, 臨床的にもすぐれたもののあることが一般に認識され, 抗癌剤としての位置づけがなされた。 しかし同時に, 副作用の面においても, 必然的に問題が生じてきた。 ことに, Bleomycinに宿命的ともいえる肺臓炎 (線維症) については, 本剤を使用する臨床家が最も注意をはらうこととなった。 Bleomycinは, 口腔に生ずる扁平上皮癌に有効性が高いために, 頭頸部悪性腫瘍の治療では, 本剤の比重は大きく, 我々は投与量と肺線維症発生の関係や発生の予防法に多くの関心を寄せてきた。
以上のような事情にあつて, 基礎的研究の分野では, これを改良しようとして多くの努力を重ねてきて, これまでに300種以上におよぶBleomycin誘導体を調製するとともに, これらについて抗腫瘍作用と副作用の2点からスクリーニングがなされた1)。 この過程を経て得られた新らしいBleomycin, NK 631は, ブレオマイシン酸のカルボン酸とN-(3-アミノプロピル)-α-フエネチルアミンの1級アミノ基を脱水縮合したものである。
今回, 我々は, NK 631を臨床応用する機会が与えられたので, ここにその頭頸部悪性腫瘍についての使用経験を報告する。