糖質は,エネルギー源として生命維持に不可欠であるとともに,細胞壁や糖タンパク質糖鎖の構築物質として不可欠である.環境中に存在するグルコースなどの栄養源の質や量の変化に応じて,細胞内代謝経路が適切に制御調節されることにより細胞の恒常性は保たれている.筆者は,単細胞の真核モデル生物であるSaccharomyces cerevisiae (出芽酵母) を用いて,糖質飢餓応答とそれに関わる細胞内糖質代謝の分子機構解明を進めてきた.これまでに,出芽酵母はグルコース飢餓に応答して細胞内で高マンノシル糖鎖を活発に代謝分解する分子機構を明らかにするとともに,グルコース飢餓応答に関わるシグナル伝達分子・経路を明らかにした.また,グルコース制限下で発現し,細胞内で高マンノシル糖鎖より切り出されるマンノースに作用する新たなヘキソキナーゼを同定した.さらに,糖タンパク質糖鎖や細胞壁の構成糖であるN-アセチルグルコサミンに特異的に作用する新規な糖キナーゼ酵素を発見した.そして,細胞内のN-アセチルグルコサミンが糖鎖生合成の基質として代謝利用される新経路の存在が示唆された.