2024 年 14 巻 1 号 p. 27-33
米粉をはじめ食品高分子の物性は内部構造に依存する.食品高分子の内部構造は,粉砕や調湿などの物理的変換操作によって改変できることが示されていることから,内部構造評価法の確立は物性制御の一助となる.また,固体が高湿度下に曝されると固着を生じることはよく知られた現象であるが,澱粉系高分子においてもガラス/ラバー状態を理解し評価することは物性制御に重要である.応用光学的手法は,対象物に影響を与えることなく状態評価が可能であるが,澱粉の階層構造の評価には,複数の分析手法の補的な活用が有効である.小角X線散乱は,空間的な構造ゆらぎを逆フーリエ変換することによって数nmから数µmの構造体の評価が可能である.また,赤外分光をはじめとした振動分光法は,時間領域の情報を周波数領域に変化する時間的フーリエ変換により,局所的な分子振動状態を評価することが可能である.そこで本研究では,応用光学的手法として,空間フーリエ変換手法である小角X線散乱と時間的フーリエ変換手法である赤外分光手法を相補に活用し,物理的変換操作を与えた澱粉系食品高分子(本報告では米粉を対象)の内部構造を評価する手法の検討を行った.