抄録
目 的
HIV陽性者を生活者として捉え,長期にわたって治療を継続してきた中で治療や病気に対してどのような意味づけをおこなっているのか,社会や文化との関連性も含めて明らかにする。
方 法
HIV陽性の40代女性1名に,長期にわたる治療や病気に関する価値観や行動が,身体的・精神的・社会的な変化と共にどのように関連し,そして彼女がどのように対処していったのかを軸に非構造化インタビューを行い,質的に分析を行った。
結 果
HIV治療が確立されていなかった感染当時は,不確実な未来に期待しないことで生と死の落差を小さくし,「低空飛行」で死が訪れる日まで確実に生きようとした。その中でHIV感染を「なるべくしてなった」自分の病いとして意味づけた。彼女が「普通」に生活することで死の不安や恐怖を際立たせず,自分あるいは他者とすごす生活の中に病気を馴染ませた。HIVを幹としてつながる人びとと「補い合う」中で共感し,共感されながら彼女は自分のこれまでの生き方を再確認し,自分がHIV陽性者である以上に一人の生活者としての意味を見出していった。
考 察
抗HIV薬を飲み続けることは彼女の可能性を広げ,新たな自己を発見することにつながった。そして,他者をケアすることをとおして,役立つことによって彼女は〈生〉の意味を生きていた。病気や治療の意味づけは病気や治療を受け入れるための手段としてでだけはなく,一人の生活者が生きる上で新たな自分を発見するための要素の一つだったと考えられる。