牛肉中のグルコースなどの単糖類は,呈味成分であるとともに,加熱調理時に生成する香気成分の前駆物質である.本研究では,黒毛和種の横隔膜,僧帽筋,腰最長筋の熟成時のグリコーゲンおよび単糖類含量の変化を調査した.その結果,熟成に従い単糖類含量は増加することが示唆され,屠畜直後の温屠体の横隔膜および腰最長筋のグリコーゲン含量と,2,3日熟成後の単糖類増加量は有意な正の相関を示した.同様に,冷屠体の僧帽筋および腰最長筋のグリコーゲン含量と,14日熟成後の単糖類増加量は有意な正の相関を示した.以上のことから,温屠体または冷屠体のグリコーゲン含量が多い牛肉では,熟成過程で単糖類が多く生成し,風味の良い牛肉となる可能性が示唆され,今後のさらなる調査と検証により,これらの筋肉中グリコーゲン含量を黒毛和種の新たな肉質の評価指標として用いることができる可能性が示唆された.