本稿は,酪農法人の財務諸表の作成実態を解明し,会計上の補正が企業価値評価に及ぼす影響を検証した.専門家および酪農法人への調査の結果,製造原価報告書の未作成や補助金処理の不統一といった課題が確認され,農業会計指針の活用も限定的であった.経営継承の現場では,負債の状況や資産の評価額に加え,土地利用の持続可能性や地域社会との信頼関係が重視されている.また,事例分析では,補助金を営業利益段階に算入するなどの補正により,評価額に数億円単位の差異が生じることが示された.多くの中小企業M&Aで重視される利益は歪められやすく,実態に即した財務諸表の構築が不可欠である.円滑な経営継承には,酪農の構造的特性を反映した情報の標準化と,情報の非対称性を解消する評価スキームの確立が要請されるといえる.