リアルオプション分析は、プロジェクトの投資決定にあたり、ファイナンス理論の枠組みのなかで発展してきたオプション価格決定モデルを適用することにより、その柔軟性の価値具体的に推定する方法を明らかにしたことにより学会のみならず、実際の世界で大きな注目をあびた。とりわけ、プロジェクトのボラティリティが、そうした「柔軟性」の価値にプラスの影響を与えることは、これまでにない視点を提供したことになった。 しかし、金融資産の評価と実物資産の評価には異なる側面がある。金融資産の評価に当たっては、Black and Scholes(1973)やCox, Ross and Rubinstein(1977) のような、負の値を取り得ない金融資産を対象にし、経営者や投資家のリスク選好や期待とは独立な「リスク中立評価」が可能である。しかし、リアルオプション研究が対象にする投資プロジェクトの評価では、まさに負になりえるプロジェクトからのキャシュフローや利益、投資家や経営者の期待やリスク回避度がプロジェクト価値にあたえる影響を考慮することなく実際の世界での投資の決定は不可能である。 また、リアルオプション研究の一層の発展のためには、その対象を投資決定にとどまらず、世の中で生じているさまざまな「実際(Real)」な事柄に広げ、投資決定におけるのと同様な大きな貢献が可能であることを示す必要があろう。 この論文では、われわれの身近にある幾つかの事例を通じて、こうした点を考慮しつつ、新しいリアルオプション研究が可能であることを示すことにしたい