抄録
【はじめに】骨盤前後傾運動は、腰椎弯曲の調節、腰椎の柔軟性改善などを目的に、座位、立位、四つ這い位など様々な姿勢で行われる。しかし、骨盤前後傾運動に伴う腰椎運動については立位姿勢と比較し、他の姿勢に関する報告は少ない。本研究では4種類の姿勢での骨盤前後傾運動時の腰椎運動について、腰椎の角度変化量、腰椎の全可動域に対する相対的な運動範囲の相違を分析した。【方法】対象は健常男子大学生11名(平均年齢:23.5歳、身長:173.3cm、体重66kg)とした。課題は骨盤前後傾運動とし、1)端座位、2)四つ這い位、3)立位膝伸展位、4)立位膝30°屈曲位にて行った。被験者の体表上、第12胸椎棘突起(T12)、第2仙椎棘突起(S2)上に、長さ12cmのプラスチック製の棒状マーカーを貼付し腰椎角度の測定指標とした。被験者には、過剰な努力なしに行える骨盤の最大前傾位から最大後傾位までの骨盤前後傾運動を5回反復するように指示し、動作をデジタルビデオカメラ(Panasonic社製DIGICAM NV-C2)を用い撮影した。画像データはパーソナルコンピュータ(Macintosh PowerbookG3)に取り込こみ、画像解析ソフトScion Imageを用いて骨盤最大前傾位、最大後傾位における腰椎角度を計測した。腰椎角度はT12部のマーカーの延長線とS2マーカーの延長線のなす角度とし、骨盤の最大前傾位と最大後傾位における腰椎角度の差を腰椎の角度変化量(以下、腰椎運動角)とした。腰椎の全可動域は最大伸展位(立位での最大後屈位)と最大屈曲位(端座位での骨盤最大後傾位・体幹最大屈曲位)における腰椎角度の差とした。また、腰椎の最大伸展位を0%、最大屈曲位を100%として、各姿勢における腰椎運動角の全可動域に対する相対的な運動域(以下、相対的運動域)を算出した。腰椎運動角の姿勢による相違の分析にはKruskal-Wallis検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】腰椎運動角の腰椎の全可動域に対する割合の平均は、1)53.4%、2)60.9%、3)27.0%、4)32.8%であり、1)、2)は3)、4)よりも有意に運動角が大きかった。相対的運動域は1)44.3から97.8%、2)36.4から97.3%、3)17.4から44.3%、4)25.7から57.8%で、1)、2)は屈曲方向への運動が起こりやすく、4)は3)よりも相対的運動域が屈曲方向に変化する特徴を認めた。【考察】今回の結果から、骨盤前後傾運動に伴う腰椎運動角、相対的運動域は、姿勢により異なることが明らかになった。よって、骨盤前後傾運動を指導する際、例えば腰椎の屈曲方向へ運動性改善を目的とする場合には、座位や四つ這い位を選択するなど、目的とする腰椎の運動方向や運動範囲を考慮し、運動を行う姿勢の選択が必要であると考える。