抄録
(はじめに)最大歩行は、運動能力を把握する一つの評価として臨床的にも用いられている。今回我々は、最大歩行におけるその速度や歩幅などをはじめとする歩行の時間、空間因子が健常な若年者と高齢者でどのような相違があるか検討した。また、最大歩行に影響を及ぼすと推察される因子として動的バランス能力を取り上げ、両群でそれらがどのように関与しているかについて検討したのでここに報告する。(対象)対象は若年者と高齢者の2群とした。若年者群は健常成人18名(男性9名、女性9名)、平均年齢21.2±2.1 歳 平均身長166.0±7.5cm 平均体重61.3±9.2kgであった。高齢者群は特にADL上支障なく屋外活動も可能な健常高齢者22名(男性16名、女性6名)で、平均年齢69.4±3.4歳、平均身長159.9±8.7cm 平均体重63.1±10.0kgであった。実験に際し被験者の同意を得て実験を行った。(方法)最大歩行の計測:被験者は踵部にインクを染ませたフェルトを取り付けた指定の運動靴を着用した。その後被験者は、前後に助走部を設けた10mのロール紙上の歩行路を最大速度にて歩行を行った。その所要時間をストップウオッチにて計測し、また、ロール紙上のインクの痕跡から10m歩行中の歩幅の平均値を算出した。 動的バランス能力の計測:被験者は重心動揺計上に閉眼閉脚で立位し前後左右にできるだけシフトするクロステストを行った。パラメータとして矩形面積を算出した。(結果)歩行速度、歩幅について2群を比較したところ、いずれも高齢者群で若年者群より有意に低値を示したp<0.01)。歩幅は、高齢者群で79.0±8.3cm、若年者群では95.0±9.0cmであった。また、2群において、歩幅を従属変数、身長、体重、矩形面積を独立変数とした逐次重回帰分析を行ったところ、高齢者群では、有意な因子として身長と矩形面積が抽出された。その重回帰式は、歩幅=-2.859+.483×(身長)+.059×(矩形面積) (r2=.56、F=11.97、p<0.01)であった。式全体の寄与率は55.8%であり、そのうち身長の寄与率は30.5%、矩形面積のそれは25.3%であった。若年者群では、身長のみが有意な因子として抽出され、重回帰式は、歩幅=-30.241+.753×(身長) (r2=.40、F=10.56、p<0.01)であった。(考察)最大歩行時の歩幅において、若年者群では身長が大きく関与し、高齢者群では身長と矩形面積が同程度に影響を及ぼしていることが確認された。このことは、高齢者群では、身長のみならず、高い動的バランス能力を有することが歩幅の延長を生み出すことにつながっていることを示唆している。今後、動的バランス能力に関与するものとして足指筋力などからの検討も必要と考えられる。