抄録
【はじめに】前回の報告では、若年女性を対象に段の高さという環境特性を下肢長という身体特性で割った比率πが‘昇り’のアフォーダンスを特定する情報のひとつとして知覚されることを示した。πは知覚システムにより選択され、昇段動作制御にとって昇ることができるという意味を示し、かつ実際に昇ることができるという価値を有する情報として知覚されると考えられる。本研究は昇段動作を課題とし、πをもとに高齢者と若年者の知覚システムを比較することを目的とした。【対象と方法】対象は健常成人女性53名(22.7±3.2歳)、 健常高齢女性48名(71.5±6.0歳)とし、下肢長、昇段知覚最大高(台に昇ることができると答えた最大の高さ)、昇段動作最大高(実際に昇段可能な最大の高さ)を測定した。昇段知覚最大高を下肢長で割った値をπPとし、昇段動作最大高を下肢長で割った値をπAとした。また、昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値の正負を調べた。πPの高齢、若年群の比較にはunpaired Student-t test、各群のπP、πAの比較にはpaired Student- t testを行い、有意水準は5%未満とした。また、昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値の正負の割合を2群で比較するため、Fisherの直接確率計算法を用いた。【結果】πPの2群間比較では、πPは若年群で0.85、高齢群で0.86となり両群で差を認めなかった。若年群のπPとπA の比較では、πPは0.85、πAは0.93となりπPがπAよりも有意に小さくなった。高齢群のπPとπA の比較では、πPは0.86、πAは0.68となり若年群とは逆にπPがπAよりも有意に大きくなった。昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値は、若年群では44名が正、9名が負の値を取り、高齢群では6名が正、42名が負の値を取った。Fisherの直接確率計算法ではp<0.01となり、若年群に比べ高齢群で有意に負の値を取る割合が大きくなった。【考察】πPの群間比較により、若年女性と高齢女性では、昇ることができるという意味を知覚する情報には差がないことが判明した。πPはπAを若年群では下回り、高齢群では上回った。また昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値は、若年群より高齢群で負の値をとる割合が大きかった。πPがπA、昇段知覚最大高が昇段動作最大高を上回ることは、できると知覚した動作が実際には遂行できない可能性を示している。以上より若年女性では昇段動作制御において知覚システムが価値ある情報を選択しており、高齢女性では知覚システムの機能が低下している可能性が示唆された。