抄録
【はじめに】前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者では,筋断面積のみでなく神経因子も筋力に影響を及ぼしていると考えられている.臨床においても,筋力にほとんど左右差を認めないにもかかわらず,筋萎縮が残存する症例も多く,正常筋と比較すると,筋線維の動員様式や発火頻度などの活動パターンが異なっていると考えられる.そこで今回我々はスポーツ復帰が可能となったACL再建術後患者の筋活動パターンの特徴を明らかにすることを目的とし,等速性運動時の表面筋電図をwavelet変換を用いて動的周波数解析を行い,筋力,筋萎縮との関係について検討したので報告する.【対象及び方法】当院にて半腱様筋・薄筋腱による鏡視下ACL再建術を施行され,スポーツ活動が可能となったACL再建術後患者10例(手術から測定までの期間:平均38か月±31か月)を対象とした.方法はCybex770を用いて,角速度 60deg/secで最大努力による膝伸展運動を3回施行し,同時に内側広筋の表面筋電図を測定した.表面筋電図の測定にはMyosystem1200sを使用し,A/D変換後,MATLAB Ver.6.1に取り込み,連続wavelet変換による周波数解析を行った.そして,ピークトルク(以下PT)発揮時の平均周波数(以下peak MePF)の平均値を算出した.また,超音波装置を用いて,安静時及び最大等尺性収縮時(膝伸展位)の電極貼付部位の筋厚を測定した.分析として,健側と患側のPT,筋厚及びpeak MePFを比較した.次に,peak MePFの健側と患側の差とPTの健側に対する患側の割合(以下健側比)との関係について検討した.また,患側のpeak MePFが健側の値に対して高い群と低い群に分類し,PTの健側比,筋厚の差を比較した.なお,有意水準は5%とした.【結果】健側と患側の比較では,PTは有意に健側が高く,安静時及び収縮時の筋厚も有意に健側の方が大きかったが,peak MePFには有意差を認めなかった.peak MePFの差とPTの健側比との間には,有意な負の相関を認めた(R=0.688, p=0.028).2群間の比較では,高い群においてPTの健側比が有意に高く,収縮時の筋厚の差も有意に少なかったが,安静時の筋厚の差には有意差を認めなかった.【考察】今回の結果,患側の有意なPTの低下と筋萎縮を認めたが,peak MePFの差とPTの健側比との関係では,PTの差が大きいほどpeak MePFの健側との差も大きく,患側のPTの値が健側に近づくに伴いpeak MePFの差が減少し,健側比が90%以上の症例では,逆に患側のpeak MePFの方が高かった.このことから,健患比の高い症例では,運動単位の発火頻度を上昇させることにより筋萎縮を補っていると考えられ,正常の筋とは異なった筋活動パターンが起こっていることが示唆された.