理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: AO029
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主題(科学的根拠に基づく理学療法)
心臓外科手術後の呼吸理学療法の有効性の検討
肺活量やADLの回復の観点から
*有薗 信一高橋 哲也熊丸 めぐみ畦地 萌横澤 尊代安達 仁金子 達夫谷口 興一
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抄録

【はじめに】心臓外科手術後の肺活量(VC)は,手術直後は手術前の50%未満にまで低下し,その後は1週間で手術前の約70%,2週間で約80%に回復するといわれている.一方,VCの経時的変化に対する呼吸理学療法介入の影響を検討した報告はなく,手術後のVCが呼吸理学療法介入によっていかに変化するかについては不明である.そこで,本研究では心臓外科手術後のVCの経時的変化やその後のADLに及ぼす呼吸理学療法の効果を検討した.【対象】対象は心臓外科手術患者60例(男性36例,女性24例)で,平均年齢は65.9(30-85)歳.対象の内訳は冠動脈バイパス術28例,弁置換術25例,その他7例であった.手術前のVCは平均2.93±0.86Lで,全例呼吸器疾患の合併症はなかった.全対象に手術前から本研究の目的,方法,有益性,リスクなどを十分に説明し,研究参加の同意を得た.【方法】研究デザインは無作為化比較対照試験を採用した.手術に先立ち,対象を無作為に2群に振り分けた.コントロール群(C群):手術前より可及的早期からの呼吸理学療法の重要性を説明し,手術後は通常の離床理学療法プログラムと必要に応じて咳嗽練習を行い,その他は自主的に1時間毎に10回程度の深呼吸を行うように指示した.インセンティブスパイロメータ群(IS群):C群のプログラムに加えて,インセンティブスパイロメータ(ボルダイン2500)を用いた深呼吸練習を行った.インセンティブスパイロメータを用いた深呼吸練習は,最初はゆっくりと呼気を行い,その後ゆっくりと吸気を始め最大吸気位で3から5秒間保持することを10回1セットとして行った.手術後1日目の午前から開始し,午前午後に少なくとも1セットずつ7日間行った.VCの測定は手術前,手術後7日目,14日目に行い,手術前のVCに対する7日目と14日目のVCの割合(%VC)を算出した.さらに,2群間の手術前VC,年齢,身長,体重,体外循環時間,麻酔時間,抜管までの時間,7日目と14日目の%VC,呼吸器合併症の有無,ADL自立までの期間を比較した.【結果】手術前VCや年齢,手術状況は両群間で差を認めなかった.7日目の%VCはC群で69.9±10.8%,IS群で73.1±14.8%で,両群間で有意な差は認めず,14日目の%VCはC群で79.9±9.6%,IS群で78.3±12.4%で,両群間で有意な差は認めなかった.呼吸器合併症は,C群で0例,IS群で1例(無気肺),病棟ADL自立までの期間は,C群で7.9±3.5日,IS群で7.4±1.2日で,有意な差は認めなかった.【まとめ】心臓外科手術後患者に対するインセンティブスパイロメータを用いた呼吸理学療法は,VCの回復や呼吸器合併症,ADL自立などに効果を認めなかった.より詳細な効果判定のため,今後は介入量の違いによる検討が必要である.

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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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