抄録
【はじめに、目的】 老人保健施設の理念と役割としても「地域に根ざした施設」であることが求められている。地域の一般高齢者,二次予防事業対象者,さらには中高年層など健康増進・介護予防への貢献,併せて職員の健康増進を目的として,当施設の設備を有効利用について検討し,平成20年9月より地域健康増進における地域密着のインフォーマル・サービスを実施している。その運営状況ついて報告する。【方法】 サービス方法:施設設備の介護保険サービス提供時間外の有効活用を検討した結果,市民サークルを設立し,施設設備を貸し出す形態での一般開放を試みた。通所リハビリテーションの理学療法士がリーダー的役割を果たし,健康運動実践指導者等とともに事務局業務を担い,運営方法やサービス内容を検討した。利用資格を,医師から運動を禁じられていない満20歳以上,介護保険の認定を受けていない等とした。利用時間は,通所リハビリテーション終了後3時間半で,週4日としている。入会時・利用時に問診やバイタイルチェック等で,運動の中止・一時中止の判断や医療機関受診を勧めるなどリスク管理に配慮している。サービス内容として,施設設備の自由使用に加えて,エクササイズのビデオを作製し放映,プール,フロアーに自作エクササイズパネルを掲示している。また定時でのグループエクササイズの実施,体力測定コーナーの設置,栄養も含めたダイエット相談等を実施している。この中で理学療法士は,リスク管理やプログラム作成等のサービス運営全般に関して,健康運動実践指導者等への教育・指導含めた管理業務を担っている。検討方法:サービス開始から平成23年9月末日までの入退会状況,会員の年齢,入会経緯,入会目的,既往歴,入会前までの運動習慣,事故の有無について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】 入会者には,サービス内容の目的・内容を利用規約に記載し,契約を持って同意を得たこととした。【結果】 平成23年9月末日現在,サービス開始から3年の累計入会数112名で,途中退会を除いた会員数94名(男性:28名,女性66名,平均年齢63.4±14.7歳)であった。入会経緯は,知人紹介33名(35.1%),職員17名(18.1%),医療機関からの紹介16名(17.0%),事前説明会14名(14.9%),広告10名(10.6%),介護予防事業4名(4.3%)であった。入会目的(複数回答)は,健康増進47件,体力向上45件,ダイエット37件,リハビリ28件,ストレス解消10件,仲間作り7件であった。既往歴(複数回答)では,高血圧症27件,糖尿病8件,高脂血症5件と生活習慣病が計40件と多くを占め,変形性関節症など整形外科疾患18件と続いた。入会前までの運動習慣は,なし54名(57.4%),1年未満2名(2.1%),1年以上5年未満12名(12.8%),5年以上10年未満6名(6.4%),10年以上20名(21.3%)であった。運動実施中の人身事故はなく,安全なサービス運営ができている。【考察】 小規模であるが二次予防事業対象者を含めた介護予防ならびに健康増進に対するニーズへの対応にもわずかであるがつながっている。また,これまで運動習慣のなかった会員が多く,利用も定着されており,地域健康増進の一助になっているのではないかと考える。サービス運営を継続していく中で,高血圧症や糖尿病などの生活習慣病と変形性関節症や腰痛などの整形外科疾患をもつ高齢者や中高年層の利用が多く,安全かつ効果的に運動実施がなされるように,適切なプログラムの提供やリスク管理の徹底,医療機関との連携の必要性が高い。加えて,当施設の健康運動実践指導者等に対する教育もサービスの向上には欠かせない要素である。介護老人保健施設という既存資源の利用することは有用と考えるが,会員の健康増進等に関する主観的評価や客観的評価から有用性を検証することが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 地域健康増進において,運動学,障害学などの専門的知識や技術,さらには介護保険,介護予防に関する知識やノウハウを携えた理学療法士の関与が有用であり,既存資源の有効利用を検討し,コーディネーターの役割を果たす意義は大きいと考える。