抄録
【はじめに】我々の生活にはバッグは欠かせないものである。このことは脳卒中片麻痺患者(以下、CVA患者)においても例外ではないと推察される。そこで、当院に外来通院され、屋外独歩可能なCVA患者にバッグに関するアンケートを実施したところ、34名中26名にバッグの使用が認められた。しかし患者の場合、身体状況の変化に伴い、バッグ使用の際、「ふらつく」「疲れやすい」「重い物が持てない」などの訴えが聞かれた。このような問題が日常生活の質(QOL)の低下を招くことも考えられる。よって、バッグの機能を十分に生かし、且つ安全に荷物を運ぶ手段を検討することが必要であると考える。今回、バッグ使用時の歩行の安定性を考える上で着目したのが歩行中の身体動揺である。そこで、床反力計を用いて足底圧中心(以下、COP)を測定し、その総軌跡長を算出することで、各条件下での歩行の比較・検討を行った。【対象】当院に外来通院され、公共交通機関も自立している独歩可能なCVA患者10名(男6名、女4名、平均年齢63.3±6.4歳、右片麻痺5名、左片麻痺5名)。【方法】計測機器は床反力計(アニマ社製2枚)を用い、5m自由歩行を行った。先行研究として、バッグなしの状態と3種類のバッグで9パターンの持ち方での歩行を健常者5名とCVA患者7名で検討した結果、リュックとウエストポーチ麻痺側後方がけにおいて有用性が示唆された。また、アンケートにより、CVA患者が多く利用しているバッグの種類と使用方法を調査した。よって、条件設定はA)バッグなし、B)リュック、C)ウエストポーチ麻痺側後方がけ、D)ショルダーバッグ非麻痺側がけ、E)ショルダーバッグ麻痺側肩から非麻痺側への斜めがけ、F)手さげカバン非麻痺側持ちとした。すべての重量は2kgに統一した。COPの総軌跡長は、1)全体(重複歩間)、2)麻痺側H.Cから麻痺側F.F直前、3)麻痺側F.Fから非麻痺側F.F、4)非麻痺側F.F直後から非麻痺側T.Oの区間にて測定した。各区間の総軌跡長と仮歩幅の商を求め、その区間におけるCOPの変位の程度(以下、動揺指数)を示した。また、仮歩幅は麻痺側F.F・非麻痺側F.Fの合成COPにおける前後方向座標の差によって算出した。【結果】動揺指数が最も低値を示したのはウエストポーチ麻痺側後方がけであり、順にバッグなし、リュック、ショルダーバッグ非麻痺側がけ、手さげカバン非麻痺側持ち、ショルダーバッグ麻痺側肩から非麻痺側への斜めがけであった。【考察】今回の結果より、荷物が身体に密着していること、身体の重心に近いこと、重心の後方に存在することが動揺の少ない歩行をもたらすと示唆された。今後も患者の意見を聞きながら手荷物位置の検討を行い、QOLの向上を図るための一手段として活用していきたい。