理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: HO064
会議情報

呼吸器疾患
広背筋のトレーニング効果が呼吸機能に与える影響について
*田辺 康二洲崎 俊男
著者情報
キーワード: 広背筋, 換気, 筋持久力
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】呼吸筋トレーニングにおいて対象となる筋は主に横隔膜であるが、これを除けば呼気筋群あるいは吸気筋群に対してアプローチすることが多く、単独の呼吸補助筋に対して行っている報告はほとんどみられない。
 今回、強い運動強度において呼気に活動するという広背筋(以下LD)に着目し、健常人を対象としてLDの筋力・筋持久力の増加が換気に与える影響について検討し、若干の知見を得たので報告する。
【対象と方法】計画を説明し同意を得た健常男性20名を対象とした。トレーニングはLDに対してラバーバンドを用い、初回時に測定した30%MVCの負荷で疲労困憊に至る回数を各自行わせ、8週間の筋持久力トレーニングとして行った。トレーニングの前後にはLDの筋力・筋持久力の評価および肺機能検査を実施した。また、LDと同様の呼気筋として働く腹直筋(以下RA)についても筋力・筋持久力の評価を行った。
 筋力・筋持久力の評価にはトルクマシーンを用いた。LDは腹臥位で肩関節中間位から伸展方向に最大等尺性収縮を行わせ、ピークトルクとその値の50%まで減衰する時間を測定した。RAには体幹屈伸筋力測定機を用い体幹直立位から屈曲方向に最大等尺性収縮を行わせ、ピークトルクとその値の70%まで減衰する時間を測定した。呼吸機能検査はスパイロメータを用い%肺活量、1秒率、%MVVを測定した。統計学的処理はトレーニング前後の同項目についてt検定を用い、有意水準は1%とした。
【結果】トレーンニング実施頻度は平均4.0回/週(遂行率57.3%)であった。LDのピークトルクはトレーニング前0.54、後0.63Nm/kg、筋持久力はそれぞれ14.8、28.1秒であり、各項目に有意な差を認めた。RAはLDのトレーニング前後でピークトルクや筋持久力に有意な差を認めなかった。肺機能検査では%肺活量、1秒率はそれぞれトレーニング前107.6、92.9%、後111.1、91.9%であり、各項目に有意な差は認めなかった。また、%MVVはトレーニング前119.7、後132.2%であり、有意な差を認めた。
【考察】トレーニング後にLDの筋力に増加(17%増)がみられたが、呼気筋の瞬発性の要素を含んでいる1秒率を変化させるまでに至らなかったと思われる。
 またMVVが増加した理由として、呼気時にRAとともに筋力と筋持久力が増加(90%増)したLDとの同時収縮による活動が影響したと考えられる。これにより筋疲労による経時的な腹腔内圧の減少が抑えられ、横隔膜の挙上や肋骨の引き下げを補助し、呼気量を増すよう作用したと推察される。したがってLDの筋持久力の増加は、努力性の最大換気時に呼気補助筋として有効に作用していると思われる。
 呼吸器疾患の症例を対象として考えた場合、呼吸不全の原因として胸郭のポンプ機能不全があげられるが、LD単独の筋持久力の増加は低換気を改善させる可能性が示唆される。

著者関連情報
© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top