抄録
[はじめに]骨格筋の力学的性質は今まで単一筋線維を用いて詳しく調べられてきたが、神経-筋標本を用いた骨格筋の力学的性質についての詳細な研究は非常に少ない。そこで、われわれは神経-筋接合を介した骨格筋の収縮特性について研究を行っている。前回の大会において以下のことを報告した。まず、神経-筋接合部の刺激伝達には温度依存性があること、そして神経刺激において急速な伸長を標本に与えると単収縮張力増強現象が観察されたことを示した。本研究では、この筋伸長によって起こる単収縮張力増強現象が伸長の速度に依存するかどうかについて収縮張力を測定し検討した。[対象と方法]ダルマガエル(Rana brevipoda)より大腿二頭筋(m. iliofibularis)全筋の神経-筋標本を作成し、等尺性収縮張力を測定した。筋節長(自然長2.2μm)をHe-Neレーザーを用いて回折像を測定することにより確認した後、標本を実験装置に固定した。標本に神経刺激または直接刺激(刺激時間1ms)を与え張力を発生させ張力計を用いて張力測定を行った。筋に急速(ステップ時間5mS以下)な伸長および低速な伸長(ステップ時間10s)を与える場合は、サーボモーター(制御張力範囲0-120g)を用いて行った。実験はすべて4℃の温度条件下にて行い10sから15s間隔で単収縮を発生させた。神経刺激において張力が安定した後、急速な伸長および低速な伸長の2種類の伸長(筋長の約7%)を加えて、そのときに発生する張力を測定しその発生張力を比較した。なお、研究に際しては大学の「動物実験に関する指針」に従った。[結果]前回の結果では、神経刺激による単収縮張力は、高温(22℃)では直接刺激による張力とほとんど変わらないが、低温(4℃)では直接刺激による張力より著しく低下した。低温において神経刺激により連続単収縮を発生させ、急速な伸長を標本に与えると単収縮張力が増大し、いわゆる収縮増強現象が観察された。この現象は標本に与える伸長程度が大きくなるにつれて顕著になった。今回の結果では、神経刺激による単収縮張力において、急速な伸長と低速な伸長による発生張力の間には張力波形およびその大きさについてほとんど変化がなく、単収縮の立ち上がりから弛緩までの時間にも差はなかった。[考察]神経-筋接合部において興奮は、伝達物質であるアセチルコリンにより神経終末から筋終板部へ伝達される。前回の結果から、骨格筋においては伝達物質の分泌は温度に著しく影響を受け、温度が低下するにしたがい抑制されるが、これとは逆に筋の急速な伸長によりその分泌は促進されると考えられる。さらに、今回の結果より、この分泌は筋伸長の速度には関係なく、ただ筋伸長という物理的状態に置かれたときのみ引き起こされる現象であることが示唆された。