理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: JO438
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脊髄疾患
プッシュアップ動作が変化した頸髄損傷者の一症例
*安田 孝司岡野 生也篠山 潤一山本 直樹神沢 信行赤澤 康史高田 正三
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抄録
【はじめに】今回、当院へ入院、その後当センター内にある重度身体障害者更生援護施設へ入所し、自動車運転の習熟、在宅・職場復帰へ至った頸髄損傷者を担当した。本症例におけるプッシュアップ動作の手掌に加わる床反力を計測し、その変化について若干の考察を加えて報告する。【症例紹介】症例は25歳、男性。平成11年8月7日受傷 し、C5/6脱臼骨折・頸髄損傷と診断され、平成12年8月2日当院へ入院した。残存機能レベルはZancolliの分類が右C6A、左C6B1、Frankelの分類がAである。【方法】床反力計上に台を設置し、端座位でのプッシュアップ動作を5回測定し、左上肢の床反力を計測した。同時に後方、側方よりデジタルビデオで撮影し、肩甲骨の動き、体幹・上肢の傾きを測定した。計測は入院して2ヵ月後の平成12年10月(以下、初期評価と略す)と2年後の平成14年10月(以下、最終評価と略す)に行い比較検討した。【結果】床反力の結果より左右成分、前後成分、垂直成分のピーク値は初期評価に比べ最終評価でそれぞれ高値を示した。特に後方成分ピーク値の増大が著明であった。また、それぞれの成分においてピーク値までの波形は初期評価に比べ最終評価で急峻になっていた。動作開始時の前後成分においては初期評価で前方成分が出現していることに対し最終評価では後方成分が出現していた。 ビデオ撮影の結果より動作開始から殿部が挙上するまでの時間が最終評価で短縮していた。動作開始時の姿勢は最終評価で体幹がより直立位となっていた。殿部が挙上し最高点に至るまでに初期評価で動作開始時の位置より上肢が12°、体幹が11°前傾したが殿部の挙上はほとんど認められなかった。最終評価では床面に対して上肢が6°、体幹が20°前傾し、殿部が初期評価時よりも高く後上方へ挙上していた。肩甲骨の動きは動作開始時の肩甲骨下制と殿部挙上時最高点での肩甲骨挙上が若干増大していた。【考察】初期評価時では上肢、体幹の前傾角度が同様に増大していた。動作開始時から肩峰が前方に移動し、上肢と体幹の位置関係に変化がなく全体的に前傾し、殿部がほとんど挙上していなかった。このことは手関節、股関節の運動を伴い、殿部が挙上するまでに肩関節だけでなく他の関節も連動した多軸のプッシュアップ動作となっており、バランスや残存能力から考えても困難な動作であったと考えられる。しかし、最終評価時において上肢の前傾角度より体幹の前傾角度が大きくなったことは、床反力の変化として著明であった後方成分からも肩関節屈曲方向のトルクが増大していたことが考えられる。また、上肢の前傾角度が減少した中で殿部が挙上していたことは肩関節を軸中心としたプッシュアップ動作が行われていたと考えられる。
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© 2003 by the Sience Technology Information Society of Japan
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