抄録
【目的】運動時には活動筋の酸素需要に応えるため,循環系は心拍出量増大や筋血流配分増加の対応をとる.この調節には自律神経系の果たす役割が大きく,自律神経障害を有する頸髄損傷者においては運動時の循環調節は健常者と異なることが考えられる.また,活動筋の酸素摂取量は酸素輸送の役割を果たす血流量と組織での抜き取りを決める酸素拡散によって規定される.したがって,活動筋における酸素利用も運動時の酸素需要に応えるためには重要な要因である.近年,運動時における筋内の酸素動態を非侵襲的に測定する方法として,近赤外光を用いた手法が注目されている.そこで,本研究では頸髄損傷者の運動時における循環応答特性を明らかにするとともに,活動筋での酸素動態について近赤外光分析を用いて検討することを目的とした.【対象と方法】対象は頸髄損傷者(SCI)6名と健常者(Control)6名とした.運動負荷様式は肘関節90°屈曲位保持の静的運動とし, 35%MVCの運動強度で疲労困憊まで行った.その間,連続指血圧測定装置(TNO-TPD Biomedical Instrumentation社製,Portapres Model2)を用いて血圧,動脈圧波形を記録し,Model Flowアルゴリズム(Beatscope ver1.0)により平均血圧(MBP),心拍数(HR),一回拍出量(SV),心拍出量(CO),総末梢血管抵抗(Tpr)を算出した.また,活動筋(上腕二頭筋)の酸素動態に関しては組織酸素モニター(オメガウエーブ社製,BOM-L1TR)を用い,総ヘモグロビン(Total Hb),酸素化ヘモグロビン(Oxy Hb),脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy Hb),組織酸素飽和度(StO2)を測定した.【結果と考察】循環応答に関しては,安静時から運動終了時におけるMBPはControlで38±4mmHg,SCIでは12±5mmHgの上昇を示し,二群間でMBPの上昇には有意な差を認めた.また,TprはControlで有意に増加したものの,SCIでは有意な変化を示さなかった.以上の結果から,SCIでは自律神経系の障害のため内臓などの非活動部位での血管抵抗を増大させることができず,効果的な活動筋への血流配分増加が制限されていることが示唆された.一方,活動筋での酸素動態はOxyHbがControlにおいて安静時の100%レベルから80%レベルに低下したのに対して,SCIでは60%レベルまで低下し,二群間で経時的変動に有意な差が認められた.この結果は運動負荷量,継続時間ともに二群間で差がなかったことと併せて考えると,活動筋での酸素利用を高めることで血流配分増加の制限を代償した結果であることが示唆された.