抄録
【はじめに】頚椎症性脊髄症(以下頚髄症)患者において臨床上、一般的な理学療法として用いられる下肢筋力強化訓練だけでは、転倒率改善に大きな効果が得られないことをよく経験する。床反力計を用いた我々の先行研究では、転倒原因として体性感覚障害に起因するバランス機能低下が、立ち上がり動作中やその直後の転倒率上昇に繋がったことを報告した。今回、頸髄症患者における下肢筋力とバランス機能の関係を検討したので報告する。【対象】本研究の目的・内容を説明し、同意を得たJOA中等度頸髄症患者7名(男性4名、女性3名)。年齢63.1±12.4歳。内、転倒経験者は5名。【方法】静的・動的評価にはアニマ社製キネトグラビコーダーG-7100、筋力評価にはHOGGAN HEALTH 社製 MICROFET-100を用いた。静的評価では30秒間開・閉眼立位を周期50mm秒で解析し、総軌跡長・動揺面積・単位面積軌跡長を測定し、各romberg 率を算出した。動的評価は40cm台からの立ち上がり動作を行い、周波数100Hzで解析し、殿部・足底部の床反力垂直分力における殿部離床から立位安定時までの時間を計測した。筋力評価は他の先行研究と比較可能で、かつ測定が簡便な膝伸展筋群を用いた。下肢下垂位の端坐位にてセンサー部分を下腿遠位部に設置し、機器を固定ベルトで検査台の支柱に固定した。測定結果の最大値を体重で除した値を等尺性膝伸展筋力として測定した。各測定は2回行い、平均値を結果とした。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い、判定した(p<0.01)。【結果と考察】静的評価では_丸1_総軌跡長romberg率が2.0±0.2、_丸2_動揺面積romberg率が2.0±0.7、_丸3_単位面積軌跡長がromberg率1.2±0.5であった。動的評価においても、殿部・足底部の床反力垂直分力における殿部離床から立位安定時までの時間は2.7±1.2 secであり、同年代健常者に比べ、1.69倍以上の時間延長を認め、有意差が認められた。これらの結果は、体性感覚障害による立位バランス低下と視覚的代償による姿勢の補正を示しており、先行研究と同様の傾向が得られた。また、筋力評価では等尺性膝伸展筋力は52.2±6.1%であった。体重比45%以上の場合、最も難易度が高い階段昇降を含めたすべての移動動作が自立していたという報告が多いが、今回の結果では移動動作に十分な膝伸展筋力であった。各々の評価の相関関係を検討したところ、静的評価と筋力評価が各項目で_丸1_rs=0.14 、_丸2_rs=0.64、 _丸3_rs=0.57、動的評価と筋力評価がrs=0.36、静的評価と動的評価が各項目で_丸1_rs=0.36、_丸2_rs=0.29、 _丸3_rs=0.15であり、いずれも有意な相関を認めなかった。以上より、JOA中等度の頸髄症患者は膝伸展筋力、静的バランス、動的バランスの間には相関性が乏しく、バランス障害を主とする本疾患では、下肢筋力訓練のみならずバランス訓練の必要性が示唆された。