抄録
【目的】高齢者は歩行を安定させるために杖を使用するが、杖の使用に関しては心理状態や環境条件によって、高齢者自身が判断している場合がある。本研究では施設を利用する障害を有する高齢者を対象として、屋内外の杖の使用状況と身体機能との関連を検討した。また客観的な身体機能検査によって、杖の使用を判別することが可能か検討した。【対象と方法】対象は介護老人保健施設、介護老人福祉施設を利用する高齢者237名(平均年齢79.8±7.35歳)とした。対象の条件は屋外まで歩行は自立し、杖以外の歩行補助具を使用していない者とした。身体機能検査として握力検査、片脚立ち保持検査、Timed Up and Go Test、Performance Oriented Mobility Assessmentを行った。ADL評価はBarhtel Indexを用いた。握力検査は左右各2回ずつ計測し、左右の最大の平均値を求めた。片脚立ち保持検査は左右2回ずつ計測し、左右の最大の平均値を求めた。Timed Up and Go Testは椅座位から立ち上がって5m前方のポールまで往復歩行し、椅子に腰掛けるまでの時間を計測した。歩行条件はできるだけ速く歩くように指示した。Performance Oriented Mobility Assessmentは立位や歩行時の安定性を定性的に得点化した。Barthel Indexは本人および担当の介護職員から生活自立度を聴取して採点した。また、面接にて杖の使用状況と移動自立度を本人から聴取した。分析は対象者を杖の使用状況から、屋内外ともに杖を使用していない者を杖なし群、屋外のみ杖を使用している者を屋外杖歩行群、屋内外ともに杖を使用している者を屋内外杖歩行群に分類して、3群間の機能を多重比較検定(Tukey検定)で比較した。また有意差の認められた群間について、各検査における95%信頼区間を求め、杖使用を判断するためのカットオフ値を求めた。【結果】杖の使用状況は、杖なし群103名、屋外杖歩行群99名、屋内外杖歩行群35名であった。すべての群間において有意差が認められたのはTimed Up and Go Testであった。杖なし群と屋外、屋内外歩行群間では握力とPerformance Oriented Mobility Assessmentにおいて有意差が認められた。杖なし群、屋外歩行群と屋内外歩行群間ではBarthel Indexにおいて有意差が認められ、杖なし群と屋内外歩行群間には片脚立ち保持検査で有意な差が認められた。また、有意差が認められた検査における各群の95%信頼区間からカットオフ値を判断すると、杖なし群と屋外杖歩行群間では握力:16kg、Timed Up and Go Test:17秒、Performance Oriented Mobility Assessment:26点であった。屋外杖歩行群と屋内外杖歩行群間ではTimed Up and Go Test:24秒、Barthel Index:94点であった。【結論】3群間すべてにおいて有意差が認められたのはTimed Up and Go Testであり、臨床的に杖の適用を判別するうえで有益な指標になると考えられた。Timed Up and Go Testが17秒以上の場合は屋外のみ杖を使用し、24秒以上の場合は屋内においても杖の使用を勧める必要性が高いと考えられた。