抄録
【はじめに】我々は上肢の運動機能を定量的に評価するために,ヒンジレバー型負荷装置を用いた検査システムを開発してきた.第37回の本学術大会において,本システムが,簡便かつ定量的に上肢荷重連鎖を評価できることを報告した.今回は,片麻痺患者のデータを加え,健常者と片麻痺患者の比較から上肢荷重連鎖のメカニズムを分析し,片麻痺患者の上肢運動機能の特性について述べる. 【実験方法】被験者:四肢・体幹に障害の認められない成人3名(以下,健常群)と,片麻痺患者3名(以下,片麻痺群)とした.測定システム:大転子,肩,肘,手部,ヒンジレバー型負荷装置に付けたカラーマーカの運動をCCDカメラで撮影し,上肢とレバーの運動を2次元計測する.力覚センサを用いてヒンジ部に加わる力も2次元計測する.これらのデータと個人情報から関節角度および関節モーメントを算出する.手順:(1)被験者を椅子に深く坐らせる;(2)カラーマーカの装着:大転子,肩峰,外側上顆,尺骨茎状突起,レバー側面,ヒンジレバー型負荷装置と力覚センサとの連結部;(3)被験肢でレバーを握り,合図とともに任意の速度でレバーを前方に押す.ヒンジレバーの軸トルク1.47[Nm],サンプリング周波数30[Hz],測定時間5[s],ヒンジレバー角の可動幅の3%を閾値として,運動の開始と終了時点を決定した.【結 果】(1)関節角度:健常群では,肩関節,肘関節,手関節とも滑らかな角度変位を示した.体幹は動作後半で軽度の前屈を示した.片麻痺群では,動作前半から肩関節の屈曲角度の増加を認めた.手関節は変異が少なく,麻痺の軽度な症例では不規則な運動を示し,重度な症例では動作全般にわたり掌屈位を示した.(2)関節モーメント:健常群では,肩関節の伸展から屈曲方向への関節モーメントの変位を示した.肘関節は屈曲から伸展方向への緩やかな変位を示した.手関節は動作前半で掌屈方向への大きな増加を示し,動作後半で背屈方向への変位を示した.中手指節間関節(以下,MP関節)も手関節同様な変位を示した.片麻痺群では,動作後半に手関節の掌屈とMP関節の屈曲方向へのモーメントが増加した.健常群と比較して各関節モーメントの変位が不規則であった.またMP関節と手関節の屈曲モーメントの減少により肘関節,肩関節の屈曲モーメントの増加を認めた.【考 察】本システムは,矢状面上からみると5つのセグメントからなる閉連鎖系である.そのため運動の自由度は拘束を受ける.特に片麻痺患者のように痙性により随意運動が低下している場合は,特に顕著である.本実験では,健常群がMP関節と手関節中心の動作を行うのに対して,片麻痺群ではMP関節と手関節の屈曲モーメントの減少を補うために肘関節,肩関節の屈曲モーメントの増加を認めた.このように,本システムを用いれば,片麻痺患者の上肢荷重連鎖の特性を定量的に評価できることが確認された.今後は,他の疾患への応用と治療による改善を定量的に評価したい.