抄録
【はじめに】下肢筋力が一定水準以上に低下した場合,移動動作が障害されることが明らかとなっている.通常,女性の筋力は同世代男性よりも低く,また女性の中でもより高齢者において筋力は低い.したがって,同程度の筋力低下が生じた場合,男性よりも女性において,またより高齢者において移動動作が制限される可能性が高いはずである.本研究では,虚弱高齢者の膝伸展筋力を健常者データに対する低下割合から評価し,筋力と移動動作の関連が性差によって影響を受けるか否かについて検証した.【対象・方法】対象は60歳以上の運動器疾患のない患者170名で,男性104名(年齢75.2±6.3歳),女性66名(年齢75.6±8.0歳)である.これらの対象に対して,膝伸展筋力と移動動作能力を調査・測定した.筋力測定にはアニマ社製μTasMT-1を用い,下腿下垂位での等尺性筋力を測定した.そして,得られた筋力値を体重で除した値(体重比)と,さらに健常者の平均値(性別,年齢別)によって除した値(健常比:%)を求めた.移動動作としては院内独歩,階段(段差16.5cm),40cm台からの立ち上がり,30cmの昇段を取り上げた.そして,膝伸展筋力を体重比,健常比からそれぞれ5段階と8段階に区分し,それぞれの筋力区分内に相当する症例中,動作可能例の占める割合を男女別に求め,比較検討した.【結果・考察】体重比から見た場合,筋力区分の低下にしたがって動作可能例の割合は減少し,男女間では差を認めなかった.体重比が0.3kg/kgを下回る場合,独歩,階段,昇段動作が自立した症例は極めて少数であった.一方,0.4kg/kgを上回る場合,ほとんどの症例で4つの動作が可能であった. 健常比から見た場合,立ち上がり動作は男女とも40%を下回る症例において動作可能例を認めなかった.筋力区分の上昇とともに可能例の占める割合は増加したが,60-70%の筋力区分においては,女性で可能例の占める割合が低い傾向にあった.独歩においても同様で,60-70%区分においては,女性で有意に可能例の占める割合は低かった(p<0.05).また,男性では70%を上回る全例で動作が可能であったが,女性では80%以上の筋力でも独歩が自立しない症例が存在した.階段,昇段動作を見た場合,男女とも健常比50%を下回るほとんどの症例で動作は不可能であった.筋力区分の上昇とともに可能例の占める割合は増加したが,60-70%区分と80-90%区分においては,女性で有意に可能例の占める割合は低かった(p<0.05).また,男性では健常比が90%を上回る全例で動作が可能であったが,女性では100%以上の筋力でも昇段が困難な症例が存在した. 以上のことから,高齢者に同程度の筋力低下が生じた場合,男性に比べ女性において動作が障害され易いことが示唆された.