抄録
【目的】理学療法の効果を科学的に判定するためには、標準化された評価尺度を使用することが必要であり、その評価尺度には信頼性、妥当性と同時に反応性(responsiveness)が求められる。本研究の目的は、大学病院入院患者において、基本動作能力を評価するために開発したFunctional Movement Scale(FMS)の反応性および退院時の転帰との関連性を検討することである。【対象】対象は、当大学病院入院中に理学療法を施行し、退院した105名の入院患者であり、男性61名、女性44名、平均年齢は66.4±13.4歳であった。退院時の転帰は、自宅退院49名、転院56名であった。疾患の内訳は、骨関節疾患22名、神経系疾患62名、脊椎疾患21例であった。【方法】理学療法開始時および退院時にFMSとADL-20(Activities of Daily Living)を測定した。FMSは11項目の動作から構成され、その得点は0-44点に分布する。また、ADL-20は、移動能力、セルフケア、手段的ADL、コミュニケーション能力の合計20項目で構成され、得点は0-60点に分布する。それぞれの評価尺度に対して、開始時と退院時の差(gain)、および差を入院時理学療法施行期間で除した変化率を算出した。さらに反応性の指標として以下を算出した:effect size(ES);(開始時平均得点-退院時平均得点)/開始時標準偏差、standardized response means(SRM);(開始時平均得点-退院時平均得点)/差の標準偏差、relative efficiency(RE);(FMSのt値/ADL-20のt値)2。なお、このt値は開始時と終了時の比較で得られた値をそれぞれ用い、1以上であれば、基準となる評価尺度(ADL-20)より反応性が高いと判定される。また、自宅退院群と転院群で退院時FMS得点の平均、標準偏差、95%信頼区間を算出し、さらに判別特性分析(ROC曲線)にて、自宅退院のcutoff値を検討した。【結果および考察】FMSとADL-20の差(gain)は、それぞれ12.6±11.6、10.7±10.2であり、有意にFMSの方が大きかった。変化率はそれぞれ0.57±0.53、0.49±0.46であり、有意にFMSの方が大きかった。ESは、FMSで-0.85、ADL-20で-0.66、SRMでは、それぞれ-1.09、-1.05であった。さらに、REは、1.07であった。すべての反応性の指標において、ADL-20に比較して、FMSの反応性が高いことが示された。退院時FMS得点の平均と95%信頼区間は、自宅退院群で37.2±7.8、34.9-39.4であり、転院群で22.0±13.2、18.5-25.5と、自宅退院群と転院群でその分布が異なっていた。さらに、ROC曲線を用いてcutoff値を検討したところ、35点で、自宅退院的中率80.0%、転院的中率78.3%であった。 以上より、理学療法を施行した大学病院入院患者において、FMSの反応性は高く、退院時の転帰とも関連性を認め、理学療法効果を判定するために適切な評価尺度であることが示唆された。