抄録
【はじめに】高齢者の転倒は,偶発的発生の側面を持つ反面,身体の内的要因と関係していることが多く,特に下肢筋力の低下や姿勢制御能力の低下は転倒の危険因子として関連性が強いことが実証されている。当施設では,患者への動機付けと効果判定を目的に,Balance Scoring(以下BS)を考案し,バランス反応と全身の筋力強化を重視した運動療法(Balance Exercise:以下BE)を導入している。 今回の研究目的は,(1)年齢とBSの関連性について検討すること,(2) 脳血管障害(以下CVA)患者に対するBE実施前後の効果を,BSを用い比較検討する事である。【対象及び方法】(1)は,男性:72名,女性:77名,計149名(平均年齢57,4±22,7歳),(2)は,CVA患者で,内訳は男性14名,女性6名,計20名(平均年齢67,5±9.9歳)とした。方法は,「バランス機能」として,高齢者用バランスボード上で,両脚立位保持・左右片脚立位保持・座位保持・回転動作の可否,「立ち上がり能力」としては, 5種類のStep台からの立ち上がり動作の可否,「体幹筋力」としては,腹直筋・左右腹斜筋・背筋筋力とし,評価はDanielsらの6段階評価を用いた。尚,統計処理にはSPSS Ver.10.0を用い,相関係数及びWilcoxonの符号付き順位検定を行った。有意水準は5%未満とした。【結果及び考察】(1)については,年齢とBSの各項目間における関係から,「年齢」と「バランス機能」では,両脚立位保持(r=-0.66),片脚立位保持(左r=-0.75,右r=-0.74),座位保持(r=-0.71),回転動作(r=-0.75),「年齢」と「立ち上がり能力」についてはr=-0.66,「年齢」と「体幹筋力」では腹直筋(r=-0.63),腹斜筋(左r=-0.55,右r=-0.53)背筋(r=-0.74)で,「年齢」とBSの全ての項目において,負の相関を示し,加齢に伴い筋力及びバランス機能は低下を示した。(2)については,両脚立位保持・立ち上がり・左右腹斜筋筋力においてのみ改善(p<0.05)が認められたが,その他については,統計的に有意な改善は認められなかった。 丸山は高齢者では運動機能が低下し,特に平衡機能(バランス)の低下が著明であると報告している。また木藤らは,バランスボードを用いた動的バランスの評価は,高齢者の易転倒性を予測する要因であり,その改善によって転倒予防に繋がる可能性を報告している。筋力に関して,浅川らは高齢であっても筋力強化訓練を行えば,筋力を改善しその能力を保つことが可能であると報告しており,Rogaersらは,70歳代では,20歳代に比べて30%の低下が生じると報告している。今回の(1)の結果から,加齢に伴うバランス機能と筋力の低下は,これらの報告と似かよった結果を示した。 (2)の結果から,CVAの理学療法においてバランス,筋力の維持や強化にBEが有用である事が示唆された。