抄録
【目的】低出力レーザー照射療法は従来のものよりも高出力となり、星状神経節近傍への照射等、生体内深部への光線療法として慢性疼痛等の治療に臨床応用されてきている。その作用機序は温熱効果に加え光エネルギー固有の効果が議論されているがまだ十分あきらかになっていない。本研究の目的は星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射が自律神経系を介して上肢の温度に与える影響を検討すること、および、上肢経絡・非経絡に与える直線偏光近赤外線照射と鍼治療の比較について検討し光線照射の効果についての議論に資することである。【対象と方法】1. 対象は健常成人男性11名(19から44歳)とし、右星状神経節近傍に直線偏光近赤外線を照射した。プローブには本物とダミーの両方を被験者に分からないように使用した。計算・数字の逆唱・深呼吸・採血に伴う穿刺の負荷を与えた後直線偏光近赤外線を20分間照射し、照射の終了時にも同様の負荷を加えその間の上肢指尖温度をサーミスターにて1分毎に計測した。2. 対象は健常成人27名(19から44歳)とし、東洋医学で経絡とされている合谷と外関、およびその対照として経絡に無関係な部位2カ所に対して直線偏光近赤外線照射と中国鍼穿刺刺激を行った。刺激は経絡・非経絡いずれも2カ所同時に右上肢に対して10分間行い、その間の四肢温度をサーミスターにて1分毎に計測した。中国鍼刺激は同一の中国人鍼灸医が一貫して行った。【結果】1. 右星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射により、計算・数字の逆唱等で与えられた刺激により低下した手指温度は両側で上昇した。ダミーを用いた非照射では、照射の場合よりも実験前の手指温度が低く比較は困難であったが照射した場合と異なる経過を示した。2. 右上肢経絡への経絡・非経絡への同時刺激では、経絡への鍼刺激による刺激側上肢の穿刺後1から2分間の指尖温度低下の後、明らかな温度上昇が認められた。この傾向は反対側の上肢および下肢でも認められた。非経絡への鍼刺激でもほぼ同様の傾向を認めたがその程度は小さかった。経絡への光線照射でも鍼刺激と同様の傾向を認めた。非経絡への光線照射では有意な変化は認められなかった。【考察】星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射では生理的負荷による指尖の温度低下に対してもその上昇を促す効果が示唆された。経絡に対する直線偏光近赤外線照射では鍼刺激と同様の反応が認められた。いずれの刺激も血管拡張による末梢の温度上昇を生じ、交感神経系抑制作用に似た反応と考えられた。